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  • プラスミノゲン受容体 plasminogen receptor

    2015/02/17 作成

    解説

    【概要】
     プラスミノゲン受容体とは赤血球以外の多くの細胞表面に存在するプラスミノゲン結合タンパク質の総称である.プラスミノゲンはフィブリンだけでなく細胞表面の複数の分子,特にC末端にリジンを有するタンパク質とリジン結合部位(LBS)を介して結合する.結合に伴い活性化されやすい高次構造に変化し,細胞表面に同様に存在するプラスミノゲンアクチベータ(組織型;tPA,ウロキナーゼ型;uPA)により容易に活性化される.uPAの細胞表面への結合には特異受容体(uPAR)が関わる.細胞表面で生成されたプラスミンはα2プラスミンインヒビター(α2-PI)による阻害抵抗性である.2次結合部位としてα2-PIのC末端リジンと結合するプラスミノゲンのLBSが占拠されていることによる.細胞表面で発現するプラスミンのタンパク質分解活性は,基質タンパク質の分解に加え細胞内シグナル伝達も修飾し,細胞移動・増殖能を変化させる.これにより,組織修復・再生,炎症,悪性腫瘍の浸潤転移など種々の生理機能ならびに病態形成に関わる.またマラリアや細菌感染時には,病原体の有するプラスミノゲン受容体(enolase-1など)が被感染体のプラスミノゲンと結合し、その活性を病原体の移動にも利用している.

    以下,代表的なプラスミノゲン受容体について記載する.
    1)アネキシンA2 -S100A10複合体:線溶機能分子,アネキシンA2参照.
    2)エノラーゼ-1,enolase-1,(別名:α-エノラーゼ,α-enolase):C末端にリジンを有する分子量45-kDaの解糖反応を触媒する酵素で細胞内に存在するほか,単球やT細胞,B細胞などの血球系細胞,神経系細胞や血管内皮細胞の表面にも存在する.単球や腫瘍細胞では刺激により細胞膜への移行や発現が増強して,細胞外基質分解,細胞遊走・浸潤が促進される.
    3)ヒストンH2B,histone H2B:ヌクレオソームを構築するコアヒストンの1種で分子量は17 kDa.分子内に多くのリジン・アルギニンを有し, C末端にリジンを有する.単球,マクロファージ、活性化リンパ球、肺がん細胞等で膜タンパク質として細胞表面にも発現する.単球がマクロファージに分化する際には,H2Bの膜表面での発現(膜表面への移行)が高まりプラスミノゲン結合能は増強するとされ,生じたプラスミン活性により炎症巣へのマクロファージの動員が促進される.
    4)Plg-RKT:C末端リジンを有する膜貫通型タンパク質(147アミノ酸からなり分子量17,261Da)として2010年に新規プラスミノゲン受容体として同定された.ヒト組織で広く発現し,末梢血では単球・リンパ球・顆粒球で発現を認める一方,血管内皮では発現しない.tPAと結合部位を共有し,またuPARと共局在する.炎症反応においてプラスミン活性依存性に単球/マクロファージの動員・遊走・浸潤に関与する.
    5)その他:ミトコンドリア外膜にある電位依存性アニオンチャネルがプラスミノゲンとtPAを結合し脳傷害に関与すること,抗凝固因子であるトロンボモジュリンがプラスミノゲンと結合しuPARと共局在して血管新生に関与することが報告されている.

    参考文献

    1) 浦野哲盟他:プラスミノゲンレセプター,Annual Review血液2014.209-215.
    2) Godier A, et.al: Plasminogen receptors and thir role in the pathogenesis of inflammatory, autoimmune and malignant disease. J thromb Haemost 11: 26-34, 2013.