大分類
  • 線溶
  • 小分類
  • 分子
  • プラスミノゲン・プラスミン plasminogen / plasmin

    2015/02/17 作成

    解説

    【概要】
     プラスミノゲンは血栓の主成分であるフィブリンを加水分解するセリンプロテアーゼ、プラスミンの前駆体であり、組織型プラスミノゲンアクチベータ(tPA)によるArg561–Val562の限定分解によりプラスミンとなり、血栓溶解および細胞外タンパク質の分解を介して組織のリモデリングに寄与する。

    【分子量、半減期、血中濃度】
     主に肝臓で合成され、791アミノ酸からなる平均分子量92,000の糖タンパクとして分泌される。半減期は2.2日、血漿中濃度は約1.2–2 µM。


    【構造と機能】

     プラスミノゲンは、N末端から順にPAN領域、特徴的な構造をもつ5個のクリングル領域(K1、K2、K3、K4、K5)、およびセリンプロテアーゼ領域から構成される。これらの領域とそれを連結するペプチド鎖間の相互作用により、これらの領域がらせん状となった立体構造をもち(図1)1,2、循環中ではプラスミノゲンアクチベータによる活性化に抵抗を示す。K1、K2、K4、K5にはリジン結合部位があり、立体構造の維持とプラスミノゲンアクチベータによる活性化の過程に関わる。特に、K5とフィブリンとの結合によるPAN–K5結合の解離は、活性化のプロセスに重要な役割を示す。また、線溶の過程で生ずるC末端リジンとK1の結合は、線溶の増幅過程に関与する。His603、Asp645、Ser740がプラスミンの活性中心を構成する。α2プラスミンインヒビター(α2PI)のC末端リジンとプラスミンのK1との結合は、α2PIによるプラスミンの阻害に関与する。
     血管内で生成したプラスミンは血栓溶解(フィブリン分解)を行う。この反応を血管内線溶と呼ぶ。また細胞表面で生成したプラスミンは直接あるいは他のプロテアーゼの活性化を介して細胞外マトリックスを含む多くの細胞外タンパク質の分解を行い、細胞の移動・浸潤、炎症、組織のリモデリングなどに寄与する。この反応を組織線溶と呼ぶ。


    【ノック・アウトマウスの表現型】

     重篤な血栓症、低体重、低生存率、皮膚や血管の創傷治癒の遅延を伴うが、これらの障害はフィブリノゲンノックアウトマウスとの交配によるダブルノックアウトマウスで緩和されることから、プラスミノゲンの基本的生理作用は線溶であると推察される3


    【病態との関わり】

    上昇: 急性炎症性疾患。
    減少: 先天性欠乏症・異常症、線溶亢進症、肝機能障害、播種性血管内凝固症候群(DIC)
    このほか、悪性腫瘍と線溶創傷治癒肝再生・肝障害と線溶のかかわりについては各用語を参照。

    図表

    • 図1 プラスミノゲンの立体構造(文献1から改変)
      赤丸は活性化開裂部位(Arg561–Val562)を、薄紫の丸は塩素イオンを示す。Pはプロテアーゼドメインを示す。

    引用文献

    1) Law RH, Caradoc-Davies T, Cowieson N, Horvath AJ, Quek AJ, Encarnacao JA, et al: The X-ray crystal structure of full-length human plasminogen. Cell Rep 1, 185-90, 2012.
    2) Xue Y, Bodin C, Olsson K: Crystal structure of the native plasminogen reveals an activation-resistant compact conformation. J Thromb Haemost 10, 1385-1396, 2012.
    3) 嘉悦洋,水口純:プラスミノーゲン/プラスミン系因子の欠損マウス,血栓止血誌 9, 146-152,1998.