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  • シロスタゾール cilostazol

    2021/11/19 更新
    2015/02/17 作成

    解説

    6-[4-(1-cyclohexyl-1H-tetrazol-5-yl)-butoxy-]3,4-dihydro-2(1H)-quinolinone

    適 応
     慢性動脈閉塞症に基づく潰瘍,疼痛及び冷感等の虚血性諸症状の改善.脳梗塞(心原性脳塞栓症を除く)発症後の再発抑制.

    副作用
    頭痛,頻脈,動悸,うっ血性心不全,心筋梗塞,狭心症,心室頻拍,頭蓋内出血,肺出血,消化管出血,鼻出血,眼底出血,胃十二指腸潰瘍,汎血球減少症,無顆粒球症,血小板減少症,間質性肺炎,肝機能障害,黄疸,急性腎不全


    禁 忌

    出血している患者,鬱血性心不全患者,本剤の成分に過敏症のある患者,妊婦または妊娠している可能性のある婦人


    作用機序

    cAMPの分解酵素であるPDEの活性阻害によるcAMP濃度の上昇を介した作用である.シロスタゾールはPDE isozymeの特にPDE3を特異的に阻害する.血小板内に存在するPDE isozymeはPDE3,5,と微量のPDE2である.PDE5はcGMPを特異的に分解する酵素であるため,シロスタゾール投与によるPDE3阻害で血小板のcAMP分解は強力に阻害される.cAMP上昇は細胞内Ca2+の貯蔵部位への再取り込み促進を介して細胞内Ca2+濃度を低下させ,血小板凝集を抑制するcAMPによる血小板活性化制御)血小板膜表面の活性化タンパク解析ではシロスタゾールはGPIIbIIIaの活性型への構造変化抑制よりもCD62Pの発現抑制に強い効果を持つことが報告されている.PDE3は他に心筋,血管平滑筋に存在するため,心悸亢進や血管拡張といった効果が顕れる.詳細な機序は明らかとなっていないが,膜リン脂質からのアラキドン酸遊離抑制を介したトロンボキサンA2産生阻害による血小板活性化抑制効果やeNOS(内皮型NO合成酵素)活性化・ROCKRhoキナーゼ)抑制・循環EPCs増加による血管内皮機能正常化効果を持つ.

     

    半減期・代謝経路

     肝代謝,腎・胆汁排泄の薬剤である.
    経口投与後,3-4時間で血中濃度がピークに達する.消失は二相性であり,α相半減期が2.2時間,β相が18時間である.

    その他のポイント・お役立ち情報

    薬剤服用を中止するとその効果は48時間で殆ど消失する.血小板活性化抑制効果は可逆的である.
    大規模臨床試験CREST(the Cilostazol for Restenosis Trial)では経皮的冠動脈ステント術後の再狭窄予防に有効であることが報告されている.大腿膝窩動脈病変に対するステント治療を含めた血管内治療後でも再狭窄率低減効果が認められる(STOP-IC試験:Sufficient Treatment of Peripheral Intervention by Cilostazol).

    単剤投与での脳卒中二次予防効果および出血性合併症発現頻度をアスピリンと比較したCSPS2Cilostazol for prevention of secondary stroke)試験ではアスピリンよりも強い再発抑制効果と半分以下の出血性合併症発生頻度が確認された.アテローム血栓性梗塞およびラクナ梗塞再発予防としてはアスピリンクロピドグレルとともにグレードAで推奨されている.非心原性脳梗塞発症48時間以内のアスピリン,シロスタゾール併用はアスピリン単独群と比較して神経症候悪化およびTIA脳梗塞再発頻度で改善がみられず(ADS試験:Acute aspirin plus cilostazol Dual therapy for non-cardioembolic stroke Study),急性期のDAPTdual anti platelet therapy)治療はアスピリンクロピドグレルが用いられる.一方,発症後8-180日の非心原性脳梗塞に対しては特に脳梗塞発症リスクの高い症例でシロスタゾールとアスピリンあるいはクロピドグレルの併用は脳梗塞再発率を半分にまで低減し,さらに重篤な出血も悪化させないことがCSPS.comCilostazol Stroke Prevention Study for Antiplatelet Combination)試験で報告された.

    保険適応外であるが,徐脈性不整脈治療やBrugada症候群における発作予防にシロスタゾールが用いられることがある.

    図表

    • 図 シロスタゾール

    引用文献

    1) Inoue T, Sohma R, Morooka S: Cilostazol inhibits the expression of activation-dependent membrane surface glycoprotein on the surface of platelets stimulated in vitro. Thrombosis Research. 1999; 93(3): 137-43.

    2) Higashi Y: Antiplatelet Drugs and Endothelial Function. Journal of Atherosclerosis and Thrombosis. 2016; 23: 1147-1149.

    3) Shinohara Y, Katayama Y, Uchiyama S, Yamaguchi T, Handa S, Matsuoka K, Ohashi Y, Tanahashi N, Yamamoto H, Genka C, Kitagawa Y, Kusuoka H, Nishimaru K, Tsushima M, Koretsune Y, Sawada T, Hamada C; CSPS 2 group: Cilostazol for prevention of secondary stroke (CSPS 2): an aspirin-controlled, double-blind, randomised non-inferiority trial. Lancet Neurology2010; 9(10): 959-68.

    4) Toyoda K, Uchiyama S, Yamaguchi T, Easton JD, Kimura K, Hoshino H, Sakai N, Okada Y, Tanaka K, Origasa H, Naritomi H, Houkin K, Yamaguchi K, Isobe M, Minematsu K; CSPS.com Trial Investigators: Dual antiplatelet therapy using cilostazol for secondary prevention in patients with high-risk ischaemic stroke in Japan: a multicentre, open-label, randomised controlled trial. Lancet Neurology. 2019; 18(6): 539-548.

    参考文献

    1) ホスホジエステラーゼ阻害薬,血栓と循環 6(4) : 305-309, 1998.

    2) 抗血小板剤シロスタゾールの研究開発,薬学雑誌 120(12) : 1247-1260, 2000.

    3) 抗血小板薬の種類と作用機序,分子脳血管病 1(4) : 383-391, 2002.

    4) アスピリン,抗血小板薬.綜合臨床 53(9) : 2509-2513, 2004.

    5)アテローム血栓性脳梗塞・ラクナ梗塞の抗血栓療法はどうするか?,循環器ジャーナル 68(4) : 665-671, 2020.

    6)脳卒中の急性期治療,日本内科学会雑誌 109(9) : 1815-1820, 2020.

    7)抗血小板薬と抗凝固薬,BRAIN and NERVE 73(9) : 975-982, 2021.