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  • 冠動脈ステント留置術 coronary stent implantation

    2021/11/09 更新
    2015/02/17 作成

    解説

    ■概要
    冠動脈内の器質的狭窄病変に対してカテーテルを用いてステント(主に金属製の網状のチューブ)を留置する治療法。経皮的冠動脈インターベンション(PCI)における主要な治療法として定着している。冠動脈ステントはバルーン血管形成術(POBA)の急性期の重大合併症であった急性冠閉塞の対策として導入され、緊急外科手術を劇的に減少させた。また、ステントはPOBAの約40%に認められた慢性期再狭窄に対しても、ベアメタルステント(BMS)で約20%、薬剤溶出性ステント(DES)では10%未満に抑制し、再血行再建術(TLR)の減少に寄与している。

    ■冠動脈ステントの種類

    ステントはBMSとDESに大別される。BMSはステンレスあるいはコバルト、プラチナなどの合金製のチューブであり、多様のデザインのものが存在する。DESはBMSをプラットフォームとして全体あるいは一部をポリマーで覆い、そこに免疫抑制薬(シロリムスやエバロリムスなど)や抗悪性腫瘍薬(パクリタキセル)を染み込ませ、局所での細胞増殖抑制作用によって、慢性期の再狭窄の抑制を図るものである。血管内治療用のステントには留置タイプ別にバルーン拡張型と自己拡張型があるが、現在の冠動脈ステントはすべてバルーン拡張型である。


    ■冠動脈ステントの適応と選択

    ステント留置の適応はガイドラインにおけるPCIの適応に準ずる。ステントの拡張限界(4.5~5mm程度)を超える大径および規格外の小径(≤2mm)の冠動脈には留置しない。ステントの選択はデザインの工夫により、通過性能、内径保持性能、側枝アクセス性、分岐部での変形性などが異なるため、留置する病変部位、血管径、病変長、病変形態、患者背景を考慮して総合的に判断する。


    ■ステント留置後の問題点

    ステントは血管内で異物であり、血栓形成性の亢進とともに閉塞性血栓が形成され、ステント血栓症を発症することがある。ステント血栓症は一旦発症するときわめて予後不良であり、アスピリンとチエノピリジン系抗血小板薬を一定期間併用投与して予防することが必須である(「冠動脈インターベンション後の抗血小板療法」の項参照)。最新のDESはポリマーの材質やデザインの改良によりステント血栓症の頻度は低下している。その一方でDESを中心に一定期間を経過したのちに遅発性の再狭窄が進行するlate catchupと、ステント内に新たに動脈硬化性の狭窄病変が形成されるneo-atherosclerosisを認めることなどが長期的な問題点として注目されている。


    ■ステントの将来

    留置後体内に残存する従来の金属製ステントと異なり、緩徐に分解吸収されるPLAなどの素材を用いた生体吸収性のステント(スキャフォルドと呼称される)が近年臨床応用されている。これらのデバイスの長期的有用性については今後のデータの蓄積が待たれる。

    参考文献

    1) 日本循環器学会:安定冠動脈疾患における待機的PCIのガイドライン(2011年改訂版).