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  • トロンボキサンA2(TXA2) thromboxane A2 (TXA2)

    2021/03/18 更新
    2015/02/17 作成

    解説

    トロンボキサンA2(TXA2)は、様々な免疫・炎症反応に関与するプロスタノイドと呼ばれるアラキドン酸代謝産物のひとつである。活性化血小板内でシクロオキシゲナーゼ(COX)により産生され、放出されたTXA2は血小板表面に結合し血小板凝集を誘導する。このためTXA2の産生抑制やTXA2受容体阻害が血栓症を予防する抗血小板療法の重要なターゲットとなっている。

    【分子量】

    352.4651 Da


    【半減期】

    血中半減期は約30秒である。


    【血中濃度】

    非常に不安定なため血中濃度の測定は困難である。加水分解により産生されたトロンボキサンB2(TXB2)は血小板活性化作用を持たないが、血漿中で安定なため血小板のTXA2産生、活性化の指標として血漿TXB2濃度が測定される。


    【構造と機能】

    血小板が刺激を受けるとホスホリパーゼA2により細胞膜リン脂質からアラキドン酸が産生される。COXの作用により、アラキドン酸はプロスタグランジンH2(PGH2)に変換され、さらにトロンボキサン合成酵素によりPGH2からTXA2へと変換される。活性化血小板より放出されたTXA2は、血小板表面のトロンボキサン受容体(TP)に結合し、Gタンパク質を介したシグナルにより血小板活性化を誘導する。血小板機能検査などでは不安定なTXA2に代わり、U46619など安定な合成類似物質がTP受容体刺激に使用される。このトロンボキサンの合成は大部分が血小板由来であるが,この産生やTP受容体の発現は他組織にも見られ、血管平滑筋による血管収縮、血管内皮細胞による血管新生、気管支喘息などのアレルギー反応、動脈硬化病変形成などへの関与も知られている。

    【ノックアウトマウスの表現形】

    TXA2は7回膜貫通型のGタンパク質共役型の受容体に結合するが、TXA2受容体は血小板、単球、マクロファージ血管内皮細胞、平滑筋細胞に発現しているためTXA2受容体欠損マウスではU46619刺激による血小板凝集反応の欠如、出血時間の著明な延長に加え、動脈硬化病変の進行抑制が見られる。

    【病態との関わり】

    アスピリンはCOX-1、COX-2ともに抑制可能であるが、低用量ではCOX-1を特異的に抑制し、PGH2産生抑制によりTXA2の合成を低下させる。PGH2の産生低下は、同時に他のプロスタノイド産生も低下させ、胃腸障害などの原因となる。このためTXA2のみの阻害を目的とするトロンボキサン合成酵素、TP受容体をターゲットとする阻害剤が期待されているが、これまでアスピリンを上回る薬剤は現れていない。

     

    図表

    • トロンボキサン合成経路

    参考文献

    1) Narumiya S: Physiology and pathophysiology of prostanoid receptors. Proc Jpn Acad, Ser B, Phys Biol Sci 83: 296-319, 2007.
    2) Thomas DW, Mannon RB, Mannon PJ, Latour A, Oliver JA, Hoffman M, Smithies O, Koller BH, Coffman TM: Coagulation defects and altered hemodynamic responses in mice lacking receptors for thromboxane A2. J Clin Invest 102: 1994-2001, 1998.
    3) 布施一郎:血小板トロンボキサン受容体異常症,日本血栓止血学会誌 第16巻第2号,2005.