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  • 血小板血栓形成機構

    2015/09/18 作成

    解説

     血栓形成に重要な3要因は、1)血液成分の変化、2)血管壁の性状変化、3)血流の変化、とされている。血栓は、凝固因子が主体となり血流の遅い静脈で形成される「静脈血栓」と血小板が主体となり血流の速い動脈で形成される「動脈血栓」に大別される。ここでは動脈血栓形成過程について述べる。

     動脈の血流は、層流をなし、中央部ではより速く、血管壁近くは遅い流れである。この速度差により生じるずり応力は、血管壁近くを流れる血小板に影響を強く与え、凝集能を亢進させる。動脈での血栓形成は動脈硬化性のプラークの破綻が大きな引き金となる。プラーク形成の初期は脂肪滴を含有した泡沫細胞と平滑筋細胞が存在する特徴がある。ここに血管内皮細胞傷害とそれに引き続く、脂質と単球マクロファージの侵入、そして平滑筋細胞の遊走と増殖の結果プラーク進展がおこる。他にプラーク内のカルシウム蓄積や菲薄化した線維性被膜、血小板の活性化に伴って発現する炎症性物質や活性化した血小板から放出される顆粒内物質もプラーク破綻の機序に主要に関与している。動脈硬化プラークの破綻に伴って露呈する内皮下組織のコラーゲン、あるいはそのコラーゲンに粘着したフォン・ヴィレブランド因子(VWF)と血小板膜受容体の反応により血小板活性化のシグナル伝達が起き、血栓形成がはじまる。この過程では血小板の膜受容体の膜糖タンパク(GP: glycoprotein)、GPIb/IX/V複合体やGPIa/IIa(インテグリンα2β1)、GPVIGPIIb/IIIa(インテグリンαIIb/β3)がそれぞれ中心的役割を持つ。内皮下組織のコラーゲンに粘着したVWFの構造がずり応力により変化し、これに血小板がGPIb/IX/V複合体を介して結合する(可逆性の粘着)。コラーゲンコラーゲン受容体GPVIの会合により血小板が活性化され、GPIa/IIaが活性化してコラーゲンとの結合が強固となる(血小板粘着)。粘着後に活性化した血小板膜上にではGPIIb/IIIaが活性型となり(血小板活性化)、フィブリノゲンやVWFと結合する。その結合を介した、あるいは、強力な血小板惹起物質であるトロンボキサンA2をはじめとする種々の因子の活性化血小板からの放出を介した正のフィードバック機構により、血小板同士が強固に凝集(血小板凝集)して安定した動脈血栓をもたらす。また、高いずり応力や高い脂質レベル、トロンビンやアデノシン二リン酸(ADP)も血小板活性化を引き起こし、その結果血小板機能を亢進させる。また血小板はその活性化に伴って発現する炎症性物質や活性化血小板から放出される顆粒内物質によりプラーク破綻の機序にも関与、すなわち正のフィードバックに働きかけている。このように凝集した血小板は、さらにフィブリンを巻き込み強固な血栓を形成する。

     動脈血栓に起因する脳梗塞や心筋梗塞において、このように血小板が重要な役割を演じていることは、血小板の機能を抑制する抗血小板薬の脳梗塞や心筋梗塞など心血管疾患に対する有効性が大規模臨床試験によって示されていることからも明らかである。

    参考文献

    1)血栓形成過程オーバービュー:杉本充彦、脈管学(51)275-282.
    2)血栓形成における血小板の役割:松原由美子、ファーマコナビゲーター抗凝固療法編、メディカルレビュー社.