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  • ずり応力 shear stress

    2015/02/17 作成

    解説

    【ずり応力とは】
     生体における血管壁にはある種の応力がかかっている。静止流体では血管壁に対して垂直方向に圧縮応力(pressure)のみであるが、血液流動状況下では血液の粘性作用により、垂直応力とずり応力(shear stress)が生じる。ここで垂直応力は圧力に比べて無視できるくらい小さいので、粘性の応力としては(血管壁に平行方向の)ずり応力のみを考慮すればよい。ずり応力は粘度と血流速度に比例し、血管径に逆比例する(図)。


    【生体でのずり応力】

     生体での血管内では、赤血球は血管内腔の中心部を比較的早いスピードで流れ、血小板や白血球などは血管壁近傍を比較的遅いスピードで流れており、このスピードの差異がずり応力を生み出している(図)。たとえば大きな静脈などでは血液はゆっくり流れておりずり応力は低いが、血液が速く流れている(細)動脈や血管径の細い毛細血管などでは高ずり応力状況と考えられる。ヒト閉鎖循環系において、ずり応力は大動脈から毛細血管ではおよそ10~20 dyne/cm2であり、細静脈から大静脈では数dyne/cm2である。心筋梗塞などが成立すると考えられる冠動脈の粥状硬化(アテローム)狭窄部位などでは極めて高いずり応力(最大数百dyne/cm2)が発生していると想定される。


    【ずり応力と血栓止血メカニズム】

     血流環境を組み入れたin vitroフローチャンバーを用いた最近の研究で、ずり応力の違いで血小板粘着・凝集メカニズムが全く異なることが判明した。高ずり応力下では、従来の静止系や閉鎖撹拌実験系で構築された古典的概念とは全く異なるメカニズムで血小板粘着・凝集反応が進行する。前述のように心筋梗塞などの致死的な重症動脈血栓症は高ずり応力下で成立することから、血栓形成メカニズムの解析には血流・ずり応力は必須であると考えられる。実際、血小板機能解析のみならず最近は血液凝固や線溶メカニズムもずり応力下で解析されるようになった。また、前述のin vitroチャンバーの実験に加えて、生体内顕微鏡による実験動物のin vivo血栓形成解析が進展し、ずり応力依存性の新機軸の血栓形成理論が蓄積されつつある。

    図表

    参考文献

    1) Savage B, Saldívar E, Ruggeri ZM: Initiation of platelet adhesion by arrest onto fibrinogen or translocation on von Willebrand factor. Cell 84: 289297, 1996.
    2) Neeves KB, McCarty OJ, Reininger AJ, Sugimoto M, King MR; Biorheology Subcommittee of the SSC of the ISTH: Flow-dependent thrombin and fibrin generation in vitro: opportunities for standardization: communication from SSC of the ISTH. J Thromb Haemost 12: 418420, 2014.
    3) Nesbitt WS, Westein E, Tovar-Lopez FJ, Tolouei E, Mitchell A, Fu J, Carberry J, Fouras A, Jackson SP: A shear gradient-dependent platelet aggregation mechanism drives thrombus formation. Nat Med 15: 665673, 2009.