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VEGF (vascular endothelial growth factor)
解説
【概要】
血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor: VEGF)といえば、一般にVEGF-Aのことを指すが、その他、VEGFファミリーに属するヒト遺伝子として、placental growth factor (PLGF), VEGF-B, -C, -Dがある。生理的あるいは病的状況で認められる血管新生やリンパ管新生に対し重要な役割を果たす。VEGFファミリーはジスフィルフド結合により架橋されたホモ二量体として分泌され、受容体型チロシンキナーゼであるVEGF receptor (VEGFR)の自己リン酸化を誘導する。このVEGF/VEGFRシステムを介した細胞内シグナル伝達により生物学的機能が惹起される。(本項では、VEGF-A, VEGF-Cを主として解説する)
【構造と機能】
1) 分子量 (単量体): VEGF-A (VEGF165): 約20kDa 、VEGF-C: 約61kDa (前駆型), 31kDa (分泌型), 21kDa (成熟型)
2) 構造: VEGF-A: splicingの違いによりアミノ酸数の異なるVEGF121, 165, 189などのvariantが報告されており、VEGF165が主役とされる。cystine knot モチーフを有し、platelet growth factor (PDGF)との類似性がある。VEGF-C: 細胞内で、全長(前駆型)VEGF-CのC末端側が切断され分泌型として細胞外へ分泌される。さらにN末端側が切断され、VEGF homology domainのみの成熟型となる。
3) 機能: VEGF-Aは代表的な血管新生因子であり、VEGFR-1 (FLT1)やVEGFR-2 (FLK1/FDR)のリガンドである。VEGF-Aは、血管内皮細胞に特異的に発現するVEGFR-2と結合し, 種々の血管新生関連因子の遺伝子発現制御や、血管内皮細胞の増殖、遊走を促進し、さらに、血管透過性を亢進する。血管内皮細胞に発現するVEGFR-1は、VEGFR-2と比較してVEGF-Aとの親和性が約10倍高い一方で、VEGF-Aにより誘導されるリン酸化の程度は低く、VEGF-A/VEGFR-2システムの制御系としての意義が大きいと考えられている。一方、VEGF-Aは単球/マクロファージに発現するVEGFR-1を介して、その遊走を促進し、病的血管新生促進に関与する。また、VEGF-Aがリンパ管新生を促進する報告もある。VEGF-Cは、VEGF-Dとともに代表的なリンパ管新生因子であり、VEGFR-2, VEGFR-3のリガンドである。分泌型VEGF-CはVEGFR-3との親和性が高く、成熟型VEGF-CになるとVEGFR-2との親和性も高くなる。主にリンパ管内皮細胞に発現するVEGFR-3を介し、リンパ管内皮細胞の増殖、遊走を促進する。
【ノック・アウトマウスの表現形】
1) VEGF-A: VEGF-A-/- (ホモ接合体)、VEGF-A-/+ (ヘテロ接合体)の両者が血管形成異常により胎生致死。
2) VEGF-C: VEGF-C-/- (ホモ接合体)はリンパ管形成不全により胎生致死。
【病態との関わり】
1) VEGF-A: 悪性腫瘍、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性、関節リウマチ、動脈硬化症などの病態で血管新生を促進し病態を増悪する。VEGF-A活性中和抗体を用いた臨床応用効果が期待されている。逆に、虚血性疾患では血管新生を促進し血流回復に寄与する。治療的血管新生療法の治療因子としての有用性が検討されている。
2) VEGF-C: 悪性腫瘍においてリンパ管新生を促進し、リンパ行性転移を促進するなど、病態増悪に関与する。
参考文献
1) 臨床免疫・アレルギー科 サイトカインのすべて,科学評論社,2012.
2) 血管新生研究の最先端,医薬ジャーナル.2013.
3) 血管生物医学事典,日本血管生物医学会,2011.