大分類
  • 血管
  • 小分類
  • 分子
  • 受容体型チロシンキナーゼ receptor tyrosine kinases

    2015/02/17 作成

    解説

    【構造と機能】
     タンパク質のリン酸化されるアミノ酸残基はチロシン,セリン,スレオニンの3つであるが,チロシン残基を特異的にリン酸化する酵素をチロシンキナーゼと呼ぶ。チロシンキナーゼは細胞の多様なシグナル伝達に関与するが,細胞膜表面に存在しリガンドが結合することによって活性化する受容体型と細胞内に存在する非受容体型に大きく分類される。

     受容体型チロシンキナーゼはリガンドに結合する細胞外ドメイン,膜貫通ドメイン,キナーゼ活性を有する細胞内ドメインの3つのドメイン構造からなる1回膜貫通型の糖タンパク質である。一般的にリガンド結合によって2つの受容体が2量体を形成し,相互のキナーゼドメインが位置的に接近し相互のキナーゼドメイン内のチロシン残基をリン酸化しあい活性化する。活性化したキナーゼドメインにエフェクター分子が結合し,そのチロシン残基がリン酸化され活性化される。こうして,細胞内の様々なタンパク質が次々に活性化しシグナル伝達が効率よく行われる。


    【病態との関わり】

     上皮増殖因子(EGF)受容体,HER2などを含むErbB受容体ファミリーはよく解析されており,様々ながん細胞において,これらの受容体が増幅(過剰発現),変異をきたしていることが明らかになっている。これらの受容体機能を特異的に阻害するモノクローナル抗体製剤は各種のがんに対する分子標的治療薬をしてすでに臨床応用されている。

     血栓止血領域で注目すべき受容体型チロシンキナーゼには,血管形成に重要とされる血管内皮増殖因子(VEGF)受容体(VEGFR),アンジオポエチン受容体であるTie受容体などがあげられる。

     VEGF-VEGFRの系は血管の新生に不可欠であることはVEGFRのノックアウトマウスの解析からも明らかであり,悪性腫瘍が増大する際に必要な腫瘍血管新生にも関与している。VEGFに対するモノクローナル抗体製剤であるベバシズマブ,VEGFRに対するチロシンキナーゼ阻害薬であるスニチニブは分子標的治療薬としてすでに臨床応用されている。

     また,クロウ・フカセ症候群(POEMS症候群)は単クローン性抗体を伴い末梢神経炎などの多様な症状を呈する疾患であるが,異常な形質細胞増殖に伴ってVEGFが過剰産生されることが病態と関与していることが明らかとなっている。過剰産生されたVEGFが血管の透過性を亢進させるために胸腹水などの多彩な症状をきたすとされている。異常形質細胞の増殖と血清中VEGF増加との関連はいまだ詳細は明らかでないが,血小板由来のVEGFが本症候群で重要であるとの報告もあり,今後の検討が注目される。

    参考文献

    1) 渋谷正史:血管新生とその制御,炎症・再生 24:144-153,2004.