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    2025/09/01 更新
    2015/02/17 作成

    解説

    【疾患概念と疫学】
     血友病とは血液凝固第Ⅷ因子(FVIII)あるいは凝固第Ⅸ因子(FIX)の量的、質的異常によるX連鎖性劣性遺伝形式の先天性出血性疾患であり、FVIII欠乏症が血友病AFIX欠乏症が血友病Bである。血友病Aの発生頻度は男子出生5,000人に1人で、血友病Bは血友病Aの約5分の1である。令和6年(2024年)度の血液凝固異常症全国調査では血友病Aの生存患者数は5956名(内女性が136名)で、血友病B1345名(内女性が49名)である。


    【臨床症状】

     血友病では、乳児期後半頃より軽微な打撲による皮下出血が反復して出現し、幼児期以降は関節や筋肉内などの深部出血が多くみられるようになるのが特徴的である。また、口腔内出血、鼻出血、血尿、消化管出血もみられ、頭蓋内出血などの重篤な出血も生じる。慢性的に関節内出血を繰り返すと、関節変形と拘縮を生じ血友病性関節症となる。


    【診断】

     血友病では出血時間や血小板数、プロトロンビン時間(PT)は正常であるが、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)が延長する。確定診断のためにはFVIIIFIX)活性の測定を行い、40%未満の場合に血友病と診断する。鑑別診断として、フォン・ヴィレブランド病(VWD)後天性血友病が重要である。VWDでもFVIIIが低下するため、フォン・ヴィレブランド因子(VWF)抗原を測定しVWF抗原が基準範囲内であれば血友病Aと診断する。また、後天性血友病ではFVIIIに対する自己抗体の出現によりFVIII活性が低下する。出血の病歴聴取とインヒビターの測定にて鑑別する。血友病の臨床的重症度は凝固因子活性とよく相関しており、FVIIIFIX)活性の程度によって、1%未満が重症型、1~5%未満が中等症型、5%以上が軽症型と分類される。重症型では自然出血として関節内・筋肉内出血が高頻度にみられるが、中等症では自然出血は少なくなり、軽度の外傷などにより出血する。軽症型では自然出血はほとんどみられなくなり、抜歯・手術や外傷後の止血困難がみられる。


    【治療】

     血友病の止血治療の原則は欠乏している凝固因子を補充することであり、濃縮凝固FVIIIFIX)製剤の静脈内投与を出血早期に行う。投与方法には出血時補充療法(on demand法)と予備的補充療法と定期補充療法がある。現在わが国で使用できる血友病に対する凝固因子製剤に関しては「濃縮凝固FVIII製剤/濃縮凝固FIX製剤」を参照されたい。製剤は血漿由来製剤と遺伝子組み換え製剤に大別され、さらに遺伝子組み換え製剤は半減期標準型(Standard Half LifeSHL)製剤と半減期延長型(Extended Half LifeEHL)製剤とに分類される。EHLはその製剤ごとに上昇率や半減期が異なっており、添付文書を参照して投与量や投与頻度を決定する。

    1)出血時補充療法(on demand法)は出血症状出現時に投与する方法で、製剤を単回もしくは複数回、ボーラス投与する方法で最も一般的な治療法である。必要投与量(単位)は、体重(kg)×目標ピーク因子活性(%)×上昇値の逆数の計算式で求められる。経験的に血友病Aでは体重(kg)×目標ピークFVIII活性(%)×0.5で、血友病Bでは体重(kg)×目標ピークFIX活性(%)×0.75~1である。追加投与を行うときは、SHL製剤の場合、血友病Aでは12時間毎、血友病Bでは24時間毎に初期投与量の半量を投与する。また、手術時の止血管理や頭蓋内出血、腸腰筋出血などの重症出血に対しては、目標因子活性トラフレベルを一定に維持するために、持続輸注療法が行われる。まず目標レベルに必要な製剤量をボーラス投与したのち持続輸注を行う。例えば100%を維持するためには、血友病Aの場合50単位/kgの濃縮凝固FVIII製剤をボーラス投与後、3~4単位/kg/hで持続投与する。血友病Bの場合は、100単位/kgの濃縮凝固FIX製剤をボーラス投与後、4~5単位/kg/hで持続投与する。投与量や期間は出血症状の程度や出血部位、また手術・処置の種類によって投与量などは異なっており、日本血栓止血学会策定のガイドラインによる指針を参照のこと。なお、EHL製剤では,その半減期の長さを活かして、ボーラス投与による止血管理を有効に行うことができる.
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    )予備的補充療法は出血の危険性が高い活動を行う場合に、あらかじめ濃縮凝固FVIIIFIX)製剤を投与することで、出血を防止しようとする投与方法である。この投与方法によって、行動範囲、社会生活の幅が広がる。
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    定期補充療法は非出血時にFVIIIFIX)因子を長期間にわたり定期的に補充することで、関節障害の進展を予防しようとする定期的な出血抑制治療方法である。SHL製剤による定期補充療法では、本治療を行う上で障害となる頻回の静脈穿刺による注射を必要としたが、EHL製剤では静脈注射の頻度が軽減され、トラフ値を高めることも可能となった。(参照:「定期補充療法」)

     

    【インヒビター】
     凝固因子製剤の補充療法の結果、製剤中の凝固第VIII因子や凝固第IX因子に対する同種抗体が発生することがある。この抗体をインヒビターと呼び、血友病Aでは約2030%、血友病Bでは約5%の患者に発生する。インヒビターが発生すると、補充療法の効果が減弱および消失するため止血治療は著しく困難になる。バイパス止血療法とインヒビター中和療法があるが、出血症状の重症度や手術の内容、最新のインヒビター力価、インヒビターの反応性によって方法を選択する。ガイドラインに治療法選択のアルゴリズムがある。また、インヒビターそのものを消失させることを目的とした免疫寛容導入療法(ITI)が行われている。

    1)バイパス止血療法は外因系の凝固を活性化させ、凝固第VIIIFIX)因子を経由せずに、凝固経路をバイパス(迂回)して止血を図る方法である。バイパス止血療法製剤には、活性型プロトロンビン複合体製剤(APCC)と遺伝子組換え活性型第Ⅶ因子製剤(rFVIIa)と血液凝固第Ⅹ因子加活性化第Ⅶ因子製剤(FVIIa/X)がある。
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    )インヒビター中和療法とは、凝固第VIII因子FIX)製剤を大量に投与することでインヒビターを中和し、さらに凝固因子活性を上昇させる方法である。インヒビターを中和するために必要な因子量は、インヒビター力価(BU/ml)×体重(kg)×20の計算式で算出する。この中和量に加えて目標ピーク因子活性が得られるように製剤を投与する。インヒビター中和療法は原則としてインヒビター力価が5BU/ml未満のローレスポンダーの場合に行われる。やむなくハイレスポンダーや反応性不明の患者に投与する場合は、57日後には既往免疫反応が生じてインヒビター力価が上昇し、効果が得られなくなることを十分考慮して投与すべきである。
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    免疫寛容導入療法(ITI)は、FVIIIFIX)製剤を頻回に反復投与することにより、免疫反応を低下させていく方法である。(参照:「免疫寛容導入療法(ITI)

     

    non factor製剤による定期的な出血抑制治療】

    凝固因子製剤ではない治療薬(non factor)による定期的な出血抑制治療が可能となった。

    ①第Ⅷ因子代替二重特異性モノクロ―ナル抗体製剤は、活性化第因子に対するモノクローナル抗体と第因子に対するモノクローナル抗体を融合させた二相性抗体で、第因子を擬態する血友病Aに対するnon factor製剤である。本製剤は皮下注射によって投与が可能で、半減期は約34週間と長いため、維持期には週に1回,2週に1回,月に1回の投与を選択できる。第因子の等価活性として約15%程度を維持すると推測されており、軽症血友病患者の状態に近くなり、出血頻度の軽減が認められる。

    ②リバランス療法製剤:生体は凝固因子と抗凝固因子がバランスをとって恒常性を保っているが、このバランスがくずれることによって、出血傾向や血栓傾向をきたす。先天性に凝固因子が不足していることで出血傾向となる血友病にとっては、抗凝固因子を低下させることで、そのバランスを調整すれば、出血抑制になる。この治療概念に基づいて開発されたのが抗TFPIモノクロナル抗体製剤である。本製剤は皮下注射で投与が可能であり、血友病A、血友病Bに関わらず効果が期待できる

    なお、インヒビター保有患者に対しては、バイパス止血製剤、第Ⅷ因子代替二重特異性モノクロ―ナル抗体製剤や抗TFPIモノクロナル抗体製剤の定期投与により出血抑制を図ることが可能である。

    non factor製剤は、いずれも、日常の出血抑制効果はあるが、出血の止血治療には効果が不十分であり、出血時や観血的処置時には、必ず別途凝固因子製剤を用いた止血治療が必要になる。