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プロテインCインヒビター protein C inhibitor
解説
【分子量、半減期、血中濃度】
ヒトプロテインCインヒビター(PCI)は、主として肝臓、腎臓および生殖臓器で産生される387個のアミノ酸からなる分子量約57kDaのセリンプロテアーゼインヒビター(セルピン)である。血中濃度は約5μg/mlで半減期は23.4時間。
【構造と機能】
PCIは、そのcDNA配列に基づく一次構造から、セリンプロテアーゼインヒビタースーパーファミリーに属するタンパク質であることが明らかになっている。セリンプロテアーゼを阻害する際に重要な反応部位はArg-Serであり、セリンプロテアーゼを阻害する際に、Arg-Ser結合が切断される。同様の反応部位を有するセリンプロテアーゼインヒビターにはアンチトロンビンがあるが、一次構造の類似性から、PCIはヘパリンコファクターIIなどと近縁であることが示されている。血漿PCIは、凝固制御因子の活性化プロテインC(APC)やトロンビン-TM複合体を阻害することにより、プロテインC凝固制御系の亢進を制御する。PCIは、APC以外に凝固系因子ではトロンビン、Xa因子、血漿カリクレインなどを阻害し、線溶系因子の組織型プラスミノゲンアクチベータ(tPA)や尿由来ウロキナーゼ型プラスミノゲンアクチベータ(uPA)を阻害し、生殖系ではアクロシンや前立腺特異抗原(PSA)なども阻害する。このように、PCIは、凝固系、線溶系および生殖系の種々のセリンプロテアーゼを阻害するが、血漿カリクレインを除いてヘパリン(1~5U/ml)やデキストラン硫酸でその阻害活性が著しく促進されることから、PCIによる種々の凝固(制御)系セリンプロテアーゼの阻害は、血管内皮上のヘパリン様糖鎖上で機能していると考えられる。PCIと他のセルピンタンパク質との大きな違いは、種により発現臓器分布が著しく異なる点である。つまり、ヒトでは肝臓、腎臓および生殖臓器など、種々の臓器でその発現が確認されているが、マウス、ラットなどのげっ歯類では、生殖臓器以外では発現していない。
【病態との関わり】
PCIの血中濃度は肝疾患患者で低下すること、およびPCIの精漿中濃度は約200μg/mlと報告されているが、男性不妊症患者でその濃度が低下するとの報告がある。PCIは、腎臓では主として近位尿細管上皮細胞で産生されるが、近位尿細管上皮細胞由来の腎癌ではPCIの発現が著しく低下すること、また、アンチトロンビンなどと同様に、PCIはそのセルピン活性非依存的に血管新生を抑制することにより腫瘍の増殖を抑制することが報告されている。最近では、PCIは肝細胞増殖因子アクチベーターの活性を制御することにより、肝細胞増殖因子による肝再生を制御・調節することも明らかになっている。
参考文献
1) 林辰弥,鈴木宏治:血漿凝固・線溶制御セルピンの構造と機能,日本血栓止血学会誌 23:481-93,2012.