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  • プロテインCインヒビター protein C inhibitor

    2025/06/12 更新
    2015/02/17 作成

    解説

    【分子量、半減期、血中濃度】
    ヒトプロテインCインヒビター(PCI)は、主として肝臓、腎臓および生殖臓器で産生される387個のアミノ酸からなる分子量約57 kDaセリンプロテアーゼインヒビター(SERPIN)である。血中濃度は約5 µg/mLで半減期は23.4時間、精漿中濃度は約200 µg/mL

    【構造と機能】
     PCIは、そのcDNA配列に基づく一次構造から、SERPINスーパーファミリーに属するタンパク質であることが明らかになっている。SERPINを阻害する際に重要な反応部位はArg-Serであり、SERPINを阻害する際に、Arg-Ser結合が切断される。同様の反応部位を有するSERPINにはアンチトロンビン(AT)があるが、一次構造の類似性から、PCIヘパリンコファクターII(HCII)などと近縁であることが示されている。血漿PCIは、凝固制御因子の活性化プロテインC(APC)やトロンビントロンボモジュリン(TM)複合体を阻害することにより、プロテインC凝固制御系の亢進を制御する。PCIは、APC以外に凝固系因子としては、トロンビン、活性化第X因子(Xa)、血漿カリクレインなどを阻害し、線溶系因子の組織型プラスミノゲンアクチベータ(tPA)や尿由来ウロキナーゼ型プラスミノゲンアクチベータ(uPA)を阻害し、生殖系では、アクロシンや前立腺特異抗原(PSA)なども阻害する。このように、PCIは、凝固系、線溶系および生殖系の種々のセリンプロテアーゼを阻害するが、血漿カリクレインを除いてヘパリン15Uml)やデキストラン硫酸でその阻害活性が著しく促進されることから、PCIによる種々の凝固(制御)系セリンプロテアーゼの阻害は、血管内皮に存在するヘパリン様糖鎖上で機能していると考えられる。PCIと他のセルピンタンパク質との大きな違いは、種により発現臓器分布が著しく異なる点である。つまり、ヒトでは肝臓、腎臓および生殖臓器など、種々の臓器でその発現が確認されているが、マウス、ラットなどのげっ歯類では、生殖臓器を除いて発現していない。

    【ノックアウトマウスの表現型】

    PCI欠損マウスは正常に出産されるが、PCI欠損マウスの雄では精子形成不全による不妊を示すことから、生殖系では、PCIは精子の形成およびその機能発現を調節しているものと考えられる。一方、先天性PCI欠損症の報告は未だなく、男性不妊症患者では精液中のPCI濃度が低下していることが示されている。ヒトPCI遺伝子をマウス受精卵に導入することにより作成したヒトと類似したヒトPCIの発現臓器分布を有するヒトPCI遺伝子トランスジェニックマウスでは、血栓形成傾向および炎症の増悪を示すことから、ヒトPCIは生理的に向凝固因子と炎症促進因子として機能していることが考えられる。

    【病態との関わり】
     先天性PCI欠損症(異常症)は報告されていない。肝疾患患者でPCIの血中濃度が低下すること、および男性不妊症患者でPCIの精漿中濃度が低下することが報告されている。PCIは、腎臓では主として近位尿細管上皮細胞で産生されるが、近位尿細管上皮細胞由来の腎癌ではPCIの発現が著しく低下すること、また、ATなどと同様に、PCIはそのセルピン活性とは独立に血管新生を抑制することにより腫瘍の増殖を抑制することが報告されている。一方で、胃癌ではPCIの発現は増加しており、胃の癌化と胃癌の増殖を促進することも報告されている。加えて、PCIは肝細胞増殖因子アクチベーターの活性を制御することにより、肝細胞増殖因子による肝再生を制御することも明らかになっている。

    参考文献

    1) 林辰弥,鈴木宏治:血漿凝固・線溶制御セルピンの構造と機能,日本血栓止血学会誌 23:481-93,2012.

    2) 秋田展幸、林辰弥:血漿凝固系と凝固制御系,日本血栓止血学会誌 35:572-580,2024.