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  • プロスタノイド受容体 prostanoid receptors in platelets

    2015/02/17 作成

    解説

     プロスタノイドは,プロスタグランジン(PG)とトロンボキサン(TX)からなる生理活性脂質であり,細胞膜構成成分であるリン脂質からホスホリパーゼA2とシクロオキシゲナーゼの作用でアラキドン酸,PGH2を経て特異的合成酵素によって生合成される.現在知られている5種のプロスタノイドPGD2,PGE2,PGF2プロスタサイクリン(PGI2,トロンボキサンA(TXA2)にはそれぞれ特異的な受容体DP,EP,FP,IP,TPが存在し,そのうちDPには2種のサブタイプDP1,DP2(CRTH2)が,EPには4種のサブタイプEP1,EP2,EP3,EP4が存在する.プロスタノイド受容体は,7回膜貫通型のGタンパク質共役受容体で,主として結合するGタンパク質によって細胞に及ぼす作用が異なる.これらのプロスタノイド受容体のうち血小板にはDP1,EP2,EP3,EP4,IP,TPの6種が発現している.

    1)TXA2受容体(TP)
     血小板は,血小板刺激物質による刺激に伴ってTXA2を産生,放出する一方で恒常的にTPを発現しているので,TXA2は血小板活性化の正の調節因子として重要な役割を担っている.TPはGqと共役し,ホスホリパーゼCを介したプロテインキナーゼCの活性化と細胞内カルシウム濃度の上昇によって血小板を活性化する.TPは,ヒトのみにおいて,第7膜貫通領域直後からのC末端の構造を異にするTPα,TPβの二つのアイソフォームが存在し,それぞれGq以外のGタンパク質とも共役する事が知られているが,それぞれのアイソフォームの血小板機能への役割の詳細は不明である.TP欠損マウスでは,血小板のTPアゴニストに対する反応性欠如とコラーゲン刺激に対する反応性低下,さらに出血時間の著明な延長を認め,TXA2の止血機構における重要性が示された.

    2)PGI2受容体(IP)
     PGI2は主に血管内皮細胞で産生され,強力な血小板凝集抑制作用をもつ.IPはGsと共役し,血小板内のcAMP濃度を上昇させる事で血小板の活性化を抑制する.IP欠損マウスでは,血小板のPGI2による血小板凝集抑制効果が見られず,血栓形成能も増強していた.さらにこのマウスでは血管内皮障害後の血管内膜肥厚の亢進を認めたが,これとは逆にTP欠損マウスでは血管内膜肥厚が軽減した.

    3)PGE2受容体(EP)
     血小板にはEP2,EP3,EP4の3種のEPが発現しており,Giと共役してcAMP濃度を低下させるEP3の発現量が最も高い.PGE2は,低濃度ではADPやコラーゲンによる血小板凝集を増強し,高濃度では抑制する.EP1~4およびIP,TP欠損血小板の解析から,低濃度PGE2による血小板凝集増強作用はEP3を介する事が示されている.一方で,高濃度PGE2刺激では,IPに交差反応し,これと共役するGsの作用によりcAMP濃度が上昇して血小板凝集抑制作用が起きると考えられている.また、高濃度PGE2は,TPとも交差反応する事が示唆されている.EP3欠損マウスは,出血時間が延長するとする報告としないとする報告が別々のグループからなされているが,いずれのグループもin vivoにおける血栓形成能の低下を報告している.

    4)PGD2受容体(DP)
     DP1はGsと共役するため,PGD2は血小板凝集抑制作用をもつが、DP1の発現量が少ない事からその作用はPGI2に比べ弱い.

    図表

    • プロスタノイド受容体

    参考文献

    1) Yuhki K, Kojima F, Kashiwagi H, Kawabe J, Fujino T, Narumiya S, Ushikubi F: Roles of prostanoids in the pathogenesis of cardiovascular diseases: Novel insights from knockout mouse studies. Pharmacol Ther 129: 195205, 2011.
    2) Thomas DW, et al. J Clin Invest. 1998; 102(11): 1994-2001.
    3) Murata T, et al. Nature. 1997; 388(6643): 678-82
    4) Fabre JE, et al. J Clin Invest. 2001; 107(5): 603-10.
    5) Ma H, t al. Circulation. 2001; 104(10): 1176-80.