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炎症と線溶 inflammation and fibrinolysis
解説
概要
プラスミノゲンはフィブリンと結合し血栓溶解に関わるだけでなく、細胞表面にある受容体と結合する。受容体はプラスミンを細胞表面にとどめ、炎症の収束に関与する。炎症の収束は過度な組織の傷害、線維化、自己免疫の進展等を抑制する。炎症と線溶の関係の解析が進めば、炎症の制御、自己免疫疾患などにおける新しい薬物の開発に役立つことが期待される。
プラスミノゲン受容体と炎症
細胞表面にあるプラスミノゲン受容体KT (Plg-RKT) は膜貫通型タンパクで、プラスミノゲンアクチベータ、プラスミノゲンを共局在化する。生成されたプラスミンを細胞表面にとどめ、細胞外基質の分解、免疫担当細胞の遊走、創傷治癒等に関わり、炎症収束の鍵となる。プラスミノゲン/プラスミンは好中球のエフェロサイトーシス/アポトーシス、単球の遊走やマクロファージの極性化、炎症メディエーターの産生、好中球の浸潤や好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps, NETs)に影響する。
病態との関わり
プラスミノゲン/プラスミンはNETsを減少させ全身の炎症を抑制することで敗血症の重症化を抑制する可能性がある。一方、プラスミノゲン産生や活性化の変調は炎症の遷延に繋がる。プラスミノゲンアクチベータインヒビター1(PAI-1)は組織ではウロキナーゼ型プラスミノゲンアクチベータ(uPA)を阻害することで細胞外基質の分解を抑制する。炎症と線溶系の関係は炎症に関与する液性因子による線溶系因子発現への影響と、線溶系因子が炎症に及ぼす影響を考慮する。PAI-1は血管内皮細胞や平滑筋細胞に豊富に発現している。PAI-1の遺伝子発現調節部位には炎症性サイトカイン応答部位がある。急性相タンパクとして炎症で急増し高値を示し、感染症ではPAI-1 血中濃度増加と死亡率が関連する。重症感染症に合併した播種性血管内凝固 (DIC) ではPAI-1発現が誘導されて線溶能は抑制され、多発性微小血栓の残存、循環障害による多臓器不全が進行する。病態の把握に臨床的には簡便で迅速に線溶能を評価する検査法が求められる。線溶系各因子の抗原量や活性を測定するが、線溶活性の包括的測定法は未確立であり、各因子が線溶系のどの部分にフォーカスした検査であるかを理解して結果を解釈する。敗血症等の重症感染症に合併したDICでは凝固活性化マーカーのトロンビン・アンチトロンビン複合体(TAT)や可溶性フィブリン(SF)は上昇するが線溶活性化マーカーであるプラスミン・α2プラスミンインヒビター複合体(PIC)は軽度上昇にとどまり、α2 プラスミンインヒビター(α2PI)はあまり低下しない。微小血栓溶解を反映するフィブリン/フィブリノゲン分解産物(FDP)やDダイマー上昇も軽度にとどまる。フィブリノゲンは炎症反応で上昇しDICを合併しても低下は目立たない。
参考文献
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