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酢酸デスモプレシン(DDAVP) 1-desamino-8-D-arginine vasopressin(DDAVP)
解説
【一般名】
DDAVP(1-desamino-8-D-arginine vasopressin)の一般名はデスモプレシン(デスモプレシン酢酸塩水和物)でデスモプレシン注4協和(協和発酵キリン)として発売されている。DDAVPは抗利尿ホルモンであるL-アルギニンバソプレシンの誘導体で、血管収縮作用を減弱化し中枢性尿崩症治療を目的に開発された。1970年代に健常者の凝固第VIII因子活性(FVIII:C)とともにフォンヴィレ・ブランド因子(von Willebrand factor: VWF)を上昇させることが報告され、中等~軽症型血友病Aやフォン・ヴィレブランド病(von Willebrand disease: VWD) Type1とType2Aの抜歯や小外科手術の止血管理における有用性が確立された。
【適応】
VWD Type1、Type2Aおよび中等症~軽症型血友病A(FVIII: C 2%以上)の軽度な出血や小外科的処置、小手術の止血管理
【副作用】
主な副作用は、のぼせ(20.0%)、熱感(20.0%)、顔面潮紅(8.4%)、頭痛(7.4%)、結膜充血(5.3%)等である。抗利尿効果は反復投与でも水分過剰摂取のない限り問題ないが、乳幼児や若年者においては低Na血症、脳浮腫、昏睡や痙攣などの水中毒による重篤副作用が報告されている。血友病や尿毒症患者では心筋梗塞や脳梗塞、VWDでは深部静脈血栓症の報告があり高齢者には注意を要する。妊婦又は妊娠の可能性のある女性への投与は有益性が危険性を上回るときのみとされ、授乳は中止すべきとされる。
【作用機序】
VWDと血友病Aにおいて止血効果が得られる理由は、DDAVPが血管内皮細胞のバソプレシンV2レセプターに結合し、cAMPによるシグナル伝達を活性化することでWeibel-Palade体からVWFの細胞外分泌が促され、それに伴うFⅧの二次的上昇を引き起こすためとされている。
【使用法】
通常0.2~0.4μg/kgを生食20mlで溶解して10~20分あるいは50~100mlで30分以上かけて静注あるいは点滴する。
【効果・半減期・モニタリング】
投与後のVWFとFVIII:Cはベースレベルの3~5倍程度上昇する。VWFとFVIII:Cのピークは投与終了後(30分後)~60分で、効果は注射後6~8時間持続し24時間後には投与前値に戻る。半減期は4.4時間である。用量依存性であるが0.4μg/kgを越えての効果は期待できない。必要時には12~24時間毎の反復投与を行うが、それにより反応性の減弱や消失(タキフィラキシー)が起こることが知られている。VWD Type1でのリストセチンコファクター活性(VWF:RCo)は通常、投与後30分以内に正常化し、効果は6~8時間持続する。Type2AではVWF:RCoの十分な上昇が期待できないことがある。Type2Bは血小板過凝集の亢進により血小板減少を引き起こすため禁忌である。Type2Nでは放出されたFVIIIの半減期がより短時間となり十分な止血効果は得られない。Type3には適応はない。血友病Aでは、重症型に適応はなく、中等~軽症型にのみFVIII:C上昇が期待できる。年齢とベースのFVIII:Cが高い方が反応がよいとされている。わが国での後方視的調査における止血効果は、Type1(58例)、Type2A(19例)、血友病A中等症型(8例)、軽症型(23例)で、それぞれ93.1%、94.74%、62.5%、65.2%の有効率となっている。投与時のモニタリングにはAPTT、FVIII:C、VWF:RCoが有用である。VWDと血友病ともにDDAVP投与後の反応はさまざまであり、予め投与試験を行っておくことが望ましい。
【その他のポイント・お役立ち情報】
参考文献
1) 高橋芳右:血友病の補助止血療法,Biomedical Perspectives 4:65-70,1995.
2) 柴田優:血栓止血の臨床 研修医のために.止血薬,抗線溶薬の適応と使用法 DDAVP,血栓止血誌 20:289-291,2009.
3) 中目暢彦,池上智子,北山慎二他:軽症・中等症血友病AおよびType1・Type2A von Willebrand病に対するデスモプレシン注協和の使用成績,血栓止血誌22:194-201,2011.