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  • 血管内皮細胞プロテインC受容体(EPCR) endothelial cell protein C receptor

    2025/04/22 更新
    2015/02/17 作成

    解説

    プロテインC経路は、主要な生理的抗凝固機構の一つである。血液凝固カスケードが活性化すると、血管内皮細胞上のトロンボモジュリン(thrombomodulin: TM)がトロンビンと複合体を形成する。このトロンビン-TM複合体は、血漿中のプロテインCを効率的に活性化プロテインC(activated protein C: APC)へと変換する。APCは、補因子であるプロテインSの存在下で、活性化第V因子(Va)および活性化第VIII因子(VIIIa)を特異的に分解・不活化し、血液凝固反応を抑制的に制御する。このプロテインC活性化反応は、血管内皮細胞プロテインC受容体(endothelial protein C receptor: EPCR, CD201)によって著しく促進される。EPCRはプロテインCに対する高親和性の特異的受容体であり、特に大血管の内皮細胞に強く発現している。EPCRは、免疫系のCD1/MHCクラスI分子ファミリーに相同性を持つ1回膜貫通型の糖タンパク質である(1)。
    近年、血液凝固第VII因子(FVII)およびその活性化型(FVIIa)も、そのGlaドメインを介してEPCRに結合することが報告された。血友病モデルマウスを用いたin vivoの実験では、EPCRへの結合が投与されたFVIIaの止血効果を増強することが示されている。FVII/FVIIaとEPCRの結合の生理的および病態生理学的意義については、さらなる解明が待たれる(2)。
    EPCRにはプロテインCだけでなくAPCも結合する。EPCRに結合したAPCは、プロテアーゼ活性化受容体1(protease-activated receptor-1: PAR-1)を切断・活性化し、MAPキナーゼ経路などを介したシグナル伝達を誘導する。これにより、抗炎症作用に関与する単球走化性タンパク質-1(monocyte chemoattractant protein-1: MCP-1/CCL2)などのサイトカイン産生が誘導される。さらに、EPCRに結合したAPCは、PAR-1を介したシグナル伝達を通じて、低酸素誘導性の血管内皮細胞アポトーシスを抑制することも示されている。これは、低酸素条件下で誘導されるp53の発現を抑制することによると考えられている(3)。これらの知見は、EPCRが抗凝固作用の補助だけでなく、細胞保護作用や抗炎症作用といった多面的な機能を有することを示唆している。
    また近年、EPCRは重症マラリア、特に脳マラリアの病態形成に関与する重要な宿主因子として注目されている。熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)が感染赤血球表面に発現するPfEMP1(P. falciparum erythrocyte membrane protein 1)タンパク質ファミリーのうち、特定の構造ドメイン(CIDRα1)を持つものがEPCRに結合する。この結合を介して、マラリア原虫感染赤血球は脳などの微小血管内皮細胞に接着する。これが微小血管の閉塞、内皮細胞の炎症や機能障害を引き起こし、重症マラリアの発症に関与すると考えられている(4, 5)。

    引用文献

    1. 福留健司:血管内皮細胞における抗血栓性.最新医学 55(2)168-1762000
    2. Pavani G, Ivanciu L, Faella A, Marcos-Contreras OA, Margaritis P: The endothelial protein C receptor enhances hemostasis of FVIIa administration in hemophilic mice in vivo. Blood 124(7):1157-65, 2014.
    3. 福留健司:EPCR最近の話題.日本血栓止血学会誌 14(6)511-513, 2003
    4. Raghavan SSR, Turner L, Jensen RW, Johansen NT, Jensen DS, Gourdon P, Zhang J, Wang Y, Theander TG, Wang K, Lavstsen T: Endothelial protein C receptor binding induces conformational changes to severe malaria-associated group A PfEMP1. Structure 31(10):1174-1183.e4, 2023.
    5. Gill J, Sharma A: Structural and genomic analysis of single nucleotide polymorphisms in human host factor endothelial protein C receptor (EPCR) reveals complex interplay with malaria parasites. Infect Genet Evol 110:105413, 2023.