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    2021/12/23 更新
    2015/02/17 作成

    解説

     【概要】

    プロテインS(PS)はビタミンK依存性糖蛋白質で、主に肝臓で合成されるが、血管内皮細胞や血管平滑筋細胞、T 細胞、マクロファージ、骨髄巨核球、Leydig細胞など様々な細胞が産生する。PS 遺伝子(PROS1)は第3染色体(3q11.1)に局在し全長110 kb15個のエクソンを含むが、近傍(3p11.1)には偽遺伝子(PROS2P)が存在する。

     

    【分子量、半減期、血中濃度】

    成熟PSタンパク質の分子量は77 kDa635個アミノ酸)である。血漿中PS濃度は約320 nM(25 μg/mL)で、約60%はC4b結合蛋白質(C4BP)と複合体を形成し、残りの約40%が遊離型として存在する。血漿中C4BPの〜80%は α鎖7個のほかにβ鎖1個を含むが(C4BPβ+)、PSはCa2+依存性に性ホルモン結合グロブリン様(SHBG)ドメインを介してβ鎖に強い親和性(Kd 0.1 nM)で結合する。PSの血中半減期は約40時間で、プロテインC(PC)VII因子の半減期(56時間)に比べると長い。

     

    【構造と機能】

    NH2末端からGlaドメイン、トロンビン感受性ドメイン、4個の連続する上皮成長因子様(EGF)ドメイン、2個のラミニンGサブユニットが連続するSHBGドメインからなる(図1)。PSの機能としては、(1) 活性化プロテインC(APC)コファクター活性:PSAPCによる活性化V因子(FVa)のArg306切断を促進し完全に失活化し、活性化Ⅷ因子(Fa)の失活化をFVとともに相乗的に促進する。(2)組織因子系凝固インヒビター(TFPI)コファクター活性:PSTFPIαのKunitz-3ドメインに結合してKunitz-2ドメインによるFa阻害をFVとともに相乗的に促進する。(3) APC非依存的抗凝固活性:PSは直接FaFVaに結合し阻害する。(4TAM受容体ファミリーのリガンド:PSおよび類似体のGas6は細胞膜上のTAM受容体ファミリー(Tyro3AxlMer)に結合し、炎症、血管形成、腫瘍形成などを制御する。ただし、遊離型PSのみが(1)(2)のコファクター活性を示す。 (1)と(4)の機能発現には、Glaドメインを介した細胞膜のフォスファチジルセリンへの強い親和性が関与する。

     

    【ノックアウトマウスの表現型】

    PSホモ欠損マウス(PS/−)は広範な血栓と出血により胎齢15.517.5日ですべて死亡するが、ヘテロ欠損マウス(PS+/−)は凝固能亢進と血管形成異常を呈す1,2)。また、肝細胞ないし血管内皮細胞特異的PS欠損マウスの解析から、血中PSの約55%は肝細胞、約45%は血管内皮細胞に由来すること、血管平滑筋細胞特異的PS欠損マウスでは血管形成異常を示すことが報告されている2)

     

    【病態との関わり】
    先天性PS欠乏症では、PROS1の変異によりPSの血液凝固制御活性が低下し、若年性に静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism: VTEを発症する原因となる。I型PS欠乏症のホモ接合体や複合ヘテロ接合体で血中PS活性が著しく低下している場合、新生児期に致死的な電撃性紫斑病病を発症するが、PC欠乏症に比べると報告例は少ない。先天性PS欠乏症の頻度は欧米白人に比べて日本人では著しく高いが、その原因の一つとして、Ⅱ型PS欠乏症を呈するPS Tokushima変異(p.Lys196Glu, K196E)の存在が考えられる。PS Tokushima変異のヘテロ接合体は日本人健常者の1.3-1.8%に存在し、 VTEのリスクを3.78.6倍上昇させる。 血中PS濃度は閉経前女性で低く、妊娠中・産褥期、エストロゲン含有経口避妊薬やエストロゲン製剤内服時にはさらに低下するためVTE発症のリスクが高まる。

    図表

    • 図1. ヒトプロテインSの構造モデル(細胞膜上) : 参考文献2)より引用

    引用文献

    1) Saller F, et al: Generation and phenotypic analysis of protein S-deficient mice. Blood 114:2307-14, 2009.

    2) Burstyn-Cohen T, et al: Lack of protein S in mice causes embryonic lethal coagulopathy and vascular dysgenesis. J Clin Invest 119:2942-53, 2009.

    参考文献

    1) Mosnier LO, Griffin JH: Protein C, Protein S, Thrombomodulin, and the Endothelial Protein C Receptor Pathways. (Marder VJ et al. eds., Hemostasis and Thrombosis: Basic Principles and Clinical Practice. 6th) Lippincott WW, Philadelphia. 2013,300-313.

    2) 津田博子. プロテインC、プロテインS、血管内皮プロテインCレセプターの基礎と臨床. In: 一瀬白帝, 丸山征郎, 和田英夫編, 新・血栓止血血管学抗凝固と線溶-: 金芳堂; 2015:22-30.

    3) Burstyn-Cohen T, et al: TAM receptors, Phosphatidylserine, inflammation, and Cancer. Cell Communication and Signaling 17:156, 2019.