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  • 急性冠症候群 acute coronary syndrome(ACS)

    2015/02/17 作成

    解説

    1) 病態・病因
     心筋虚血により発症する急性心筋梗塞、不安定狭心症、心臓突然死の総称である。原因は粥腫を覆う線維性被膜が破裂することで生じる冠動脈血栓が主であるが、特殊な例として冠攣縮、冠解離等がある。動脈硬化に伴い粥腫が形成されても代償性血管拡張(positive remodeling)により内腔はある程度保たれる。しかし、被膜内部には活性化されたマクロファージやTリンパ球が多数存在し、タンパク分解酵素を放出することで被膜が菲薄化し不安定プラークを形成する。これが破綻し急速に血栓形成をきたす。


    2) 疫学

     厚生労働省の2011年の患者調査によると急性心筋梗塞患者の総患者数は4.1万人といわれる。2004年に日本集中治療医学会が出した有病率は男子では千人あたり23.9人、女性では10.8人であった。日本は欧米と比較し、その頻度は著しく少ないが、近年では都市部を中心に冠動脈罹患率の増加が指摘されている。


    3) 検査と診断

     迅速な心電図による初期治療方針の決定が必要であり、病院前12誘導心電図(救急隊接触時)の施行と医療機関への伝達が重要視されている。はじめにST上昇型ACSか非ST上昇型ACSかを判定する。ST上昇型であれば①酸素投与、②ニトログリセリン舌下、③アスピリン160-325㎎の咀嚼服用、クロピドグレル300㎎の内服、④ヘパリン投与、⑤胸痛持続時はモルヒネ2mgを投与する。血行動態が安定していれば経皮的冠動脈インターベンション (PCI)を施行する。出来ない場合には経カテーテル血栓溶解療法(冠動脈内血栓溶解療法)を考慮する。再灌流療法は病院到着から初回バルーン拡張による責任病変の再開通までの時間を90分以内とする必要があり、2014年4月から診療報酬にも盛り込まれている。発症から12時間以内の症例がPCIの適応だが虚血性胸痛と1mm以上のST上昇が持続している場合などはPCIを行う。血行動態が不安定な場合には大動脈内バルーンパンピング(IABP)や経皮的心肺補助法(PCPS)などの機械補助を行い血行動態の安定化を優先する。非ST上昇型ACSであっても治療に反応しないST低下や胸痛などが持続する場合は早期に冠動脈造影を行う。心電図所見や理学的所見、生化学的マーカーの上昇を認めない場合にも急性冠症候群を疑う場合には一定の時間をおいて再検する。この際心エコーでの冠動脈支配領域に一致した壁運動異常が診断の有力な補助となる。


    4) 治療の実際

     2008年5月-2009年5月におけるPCI可能な96施設、3597例のACS症例の観察研究(PACIFIC Registry)ではST上昇型59.4%、非ST上昇型40.6%で、全体の93.5%にPCIが施行され成功率93.9%、2年間のフォローアップでの全死亡は6.3%であった。なおPCIの治療内容は経皮的バルーン血管形成術(POBA)のみ16.6%、ベアメタルステント留置62.2%、薬剤溶出性ステント留置30.2%であったが、近年では再狭窄の少ない薬剤溶出性ステントの使用率が増加している。日本循環器学会による循環器疾患診療実態調査によると2013年におけるPCI(緊急、待機を含む)におけるステント留置249,744病変のうち、ベアメタルステント31,382病変(12.6%)、薬剤溶出性ステント218,362病変(87.4%)であった。


    5) その他のポイント・お役立ち情報

     抗凝固薬と抗血小板薬2剤の計3剤の内服による出血リスクの上昇が問題視されており、抗凝固薬の併用と抗血小板薬の中断時期に関して議論されている。

    参考文献

    1) ST上昇型心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改定版).
    2) 非ST上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン(2012年改定版).
    3) JRCガイドライン2010-急性冠症候群.
    4) 循環器疾患の最新医療 先端医療技術研究所.