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  • 経カテーテル血栓溶解療法(冠動脈内血栓溶解療法) trans-catheter thrombolysis (intra-coronary thrombolysis)

    2021/11/09 更新
    2015/02/17 作成

    解説

    ■概要
    冠動脈内に形成された閉塞性血栓を溶解させる目的で、冠動脈カテーテルを用いて冠動脈入口部からウロキナーゼ組織型プラスミノゲンアクチベータ(tPA)などの血栓溶解薬を注入する観血的治療法を総称する。


    ■背景

    急性心筋梗塞は冠動脈内に形成される閉塞性血栓により重篤な心筋虚血を生じ、不可逆的な心筋壊死をもたらすことから、早期の血流再開を目的として行われる再灌流療法が初期治療として極めて重要である。急性心筋梗塞の血栓は冠動脈内の不安定プラークの破綻や表面のびらんに伴って形成され、その主体は血小板血栓とフィブリン血栓の両方が混ざる混合血栓である。血栓溶解薬は閉塞性血栓のうちのフィブリン血栓に作用して血流を再開させるが、血小板血栓には作用しないことを認識しておく必要がある。


    ■適応

    本療法は主として急性心筋梗塞における閉塞性血栓を溶解させて冠血流を回復させるいわゆる再灌流療法として行われる。フィブリン血栓は時間経過とともに次第に強固になり、溶解薬の有効性が損なわれていくため、発症からの経過時間が重要である。日本循環器学会ガイドラインにおいては発症から12時間以内とされているが、6時間以内で有効性がもっとも高い。また高齢者では出血性合併症のリスクが高くなることから、75歳未満が良い適応とされている。なお、本療法はステント血栓症に対する緊急経皮的冠動脈インターベンション (PCI) 後に際し、治療後に残存するステント内血栓の除去対策としてしばしば補完的に行われている。


    ■本治療法の実際と効果

    本療法では、冠動脈造影を行って診断が確定したのちに冠動脈カテーテルを用いて冠動脈入口部から適切な用量の血栓溶解薬(ウロキナーゼ、組織型プラスミノゲンアクチベータ (tPA) 製剤)を直接冠動脈内に注入する。薬剤の効果を最大限に発揮するため、冠動脈内に挿入した多数の小孔をもつ特殊なカテーテルから血栓内に直接薬剤を注入するPIT(pulse infusion thrombolysis)などの手法も用いられる。本療法の利点は、1)急性心筋梗塞の閉塞病変を確認した上で選択的に薬剤を注入できること、2)冠動脈造影が可能であればPCIの術者を必要としないこと、などが挙げられる一方、欠点として、1)冠動脈造影を施行するまで薬剤の投与ができないこと、2)有効な再灌流が得られる再灌流成功率が70%程度であり、PCIの95%程度と比べて劣ること、などが挙げられる。このため本療法は経静脈的血栓溶解療法やPCIのどちらにも有用性を示しえず、近年では再灌流療法としては特殊な場合を除きほとんど行われない。現在わが国では主にPCIが行われるが、拡張した冠動脈内の大量血栓に対してはPCIの効果は限定的であり、PITを用いた血栓溶解療法が有用とする報告もある。なおAMIに対する経静脈的血栓溶解療法はPCIが施行できない場合の手段として必須の治療法である。

    参考文献

    1) 日本循環器学会:ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版).