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  • アンチトロンビン欠乏症・異常症 antithrombin deficiency/abnormality

    2021/12/01 更新
    2015/02/17 作成

    解説

    1) 病態・病因
    アンチトロンビン(AT)欠乏症・異常症は、血液凝固阻止因子・ATの量的/質的異常に伴い血中AT活性の低下を来す疾患で、最も古くから知られる血栓性素因(thrombophilia)。AT(従来呼称:アンチトロンビンIII;ATIII)は、主要な血漿セリンプロテアーゼインヒビターとしてトロンビンや活性化第X因子などと1対1の複合体を形成・不活化し、凝固反応を阻害する。この阻害作用は通常ゆるやかに進行するが、ヘパリンの存在下では即時型となる。


    2) 疫学

    AT欠乏症・異常症の日本人での頻度は一般人口の0.15%とされ、その原因はAT遺伝子(SEPINC1)異常によるミスセンス変異が多く、通常へテロ接合体でホモ接合体は致死的と考えられている。AT異常症の一部はホモ接合体として報告されている。


    3) 検査と診断

    AT欠乏症は血中AT活性値低下をもって診断される。先天性AT欠乏症/異常症は常染色体優性遺伝形式をとり、大きく2つの病型に分類される。抗原量/活性値ともに低下する量的異常(Type I)と抗原量正常で活性のみ低下する質的異常(Type II)があり、Type I の方が多い。Type II には、活性部位異常(Type II RS)、ヘパリン結合部位異常(Type II HBS)、反応部位近接領域異常(Type II PE)の3種類がある(表1)。より確定的に診断が可能な遺伝子解析は研究的側面が強く、その施行には各施設倫理委員会の承認のもと十分なインフォームドコンセントを得て進める必要がある。


    4) 治療の実際

    一般的血栓症治療として、急性期にはヘパリン(注射)、慢性期にはワルファリン(経口)などの抗凝固薬が使われる。ヘパリンはATを介した間接的抗凝固作用を示すため、先天性AT欠乏症・異常症ではアンチトロンビン濃縮製剤による補充療法を必要とすることがある。


    5) その他のポイント・お役立ち情報

    先天性AT欠乏症(Type I)はAT分子異常症(Type II)に比べて血栓症発症リスクが高く、健常人での血栓症発症リスクの10~20倍で約9割が60歳までに血栓症を発症する。プロテインC欠乏症、プロテインS欠乏症の血栓症発症リスクと比較しても高い。

    図表

    • AT欠乏症/異常症の分類

    参考文献

    1) 辻肇:凝固インヒビター-ATの基礎と臨床,一瀬白帝編著,図説 血栓・止血・血管学 血栓症制圧のために.東京,中外医学社,2005,483-489.