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  • 急性冠症候群と線溶療法

    2015/02/17 作成

    解説

    【病態・病因】
     急性冠症候群(ACS)は、不安定狭心症、急性心筋梗塞を包括した冠動脈内血栓症を示す。冠動脈内の動脈硬化巣の破綻を契機とする内膜損傷と、これに引き続く冠動脈内の血栓性閉塞により、心筋の虚血が惹起される。冠血流下では、血栓形成のinitiatorとして血小板凝集による一次血栓形成が深く関与する。動脈硬化巣で傷害された血管内皮細胞、平滑筋細胞、炎症細胞は組織因子を発現しており、外因系凝固カスケードを惹起する準備状態にある(図)。組織因子と結合した活性化凝固第VII因子(FVII)凝固第X因子(FX)を活性化し、さらに活性化された凝固第X因子(FX)はプロトロンビンを活性化し少量のトロンビンを形成する。 この段階でのトロンビンの活性化は微量であるが、内因系凝固カスケードの活性化に必要な凝固第XI因子(FXI)や凝固第VIII因子(FVIII)、凝固第V因子(FV)を活性化し、内因系カスケードによる凝固反応の増幅を準備させるのには十分である。さらに、活性化された血小板表面上では、効率よく凝固因子の活性化が、すなわち内因系カスケードでの増幅が起こり、その結果、大量のトロンビン生成、そして血栓形成が起こる。こうして完全閉塞をきたして貫通性の心筋虚血をきたしたものが急性心筋梗塞、完全閉塞にいたらず非貫通性の心筋虚血をきたしたものが不安定狭心症である。


    【疫学・検査と診断】

     急性冠症候群の項を参照のこと。


    【治療の実際】

     多くが急性期に経皮的冠動脈インターベンション(PCI)あるいは冠動脈バイパス術による再灌流療法を行い、抗血小板剤治療へ移行していく(「アスピリンと未分画ヘパリンを投与する(クラスI)。ヘパリン起因性血小板減少症を合併する場合未分画ヘパリンの代わりにアルガトロバン(経口トロンビン阻害薬)を投与する(クラスI)。フォンダパリヌクス(間接的抗Xa薬)はヘパリンの代換薬として期待されるが、OASIS-6試験においてPCI後の有効性が示されなかったため、国内の適応は深部静脈血栓症の予防にとどまっている。これらの抗凝固剤は経口投与でないため、急性期投与のみに限定される。
     急性冠症候群の2次予防のための標準治療として、禁忌がない限りアスピリン(初期治療として162~325mg咀嚼服用、以後81~162mg/日)を無期限に投与する。冠動脈ステント留置術を行う患者ではこれに加えて12か月のクロピドグレル(PCI治療前にloading doseの300mgを投与後75mg/日を継続)が2剤による抗血小板治療(dual antiplatelet therapy; DAPT)として推奨されている(以上クラスI)。
     PCIを早期に開始できる施設が多いこと、出血性合併症の危険因子の制約などが理由となり、近年の再灌流療法において血栓溶解療法の占める割合はその10%にとどまっている。しかし、PCIを早期に開始できない場合は血栓溶解療法を考慮すべきである。血栓溶解療法は、発症12時間以内でST上昇心筋梗塞(心電図上の分類、冠動脈完全閉塞により貫通性の虚血を示している)あるいは新規左脚ブロック(心電図上の分類、虚血による左室の伝導障害を示している)を認める75歳未満のものをクラスIの適応とする。実際には未分画ヘパリンの補助治療(クラスIIa)とともに、第二世代の組織型プラスミノゲンアクチベータ (tPA)製剤モンテプラーゼ13750~27500単位/kgを静脈内投与する。半量投与と比較して、全量投与では出血性合併症は増加するが、TIMI血流分類2以上の再疎通率は上昇しない。このため引き続きPCIを行う可能性を考慮して、出血性合併症を予防するために、半量投与することが多い。頭蓋内出血の既往、6か月以内の脳梗塞、活動性出血などの絶対禁忌、重症高血圧(180/110mmHg)などの相対禁忌がある。これ以外にも、特に高齢者、発症後時間の経過した状況では、脳出血、心破裂、心室中隔穿孔の発生頻度が高くなるので、禁忌とこれらの危険因子を十分認識しなければならない。

    図表

    • 図 急性冠症候群における血栓傾向

    引用文献

    1) 竹下享典,小嶋哲人:血栓と循環 Vol.19 No.4,2011,44-50.

    参考文献

    1) 日本循環器学会:循環器病の診断と治療に関するガイドライン,非ST上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン(2012年改訂版).
    2) 日本循環器学会:循環器病の診断と治療に関するガイドライン,ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版).
    3) 竹下享典,小嶋哲人:血栓と循環 Vol.19 No.4,2011,44-50.