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血小板と動脈硬化
解説
血小板を介した動脈硬化の進展には血小板と他細胞(白血球や血管内皮細胞)との接着反応と接着受容体に反応した細胞応答による細胞活性化が重要である.血小板と他細胞は細胞間ネットワークを介してお互いの接着をさらに容易にし,各細胞内に活性化シグナルが伝達され,局所での様々なサイトカイン・ケモカインの分泌,接着分子の発現により,動脈硬化を進展させる炎症反応・細胞接着がさらに高まる.血小板はこのような細胞間接着と細胞活性化を制御し,動脈硬化の進展に寄与している.
【血小板接着反応と動脈硬化】
Glycoprotein (GP) Ibは,初期の血小板の内皮細胞への接着,白血球インテグリンαMβ2との結合に重要である.GPIbを介した血小板接着の長期抑制により動脈硬化性病変の進展が抑制される.GPIIb(インテグリンαIIb)欠損マウスでは動脈硬化が抑制されるが,GPIIIa(インテグリンβ3)の欠損マウスでは動脈硬化性病変が逆に増強する.GPVIの欠損マウスでも動脈硬化の進行が抑制される.ホモフィリックな結合様式をするJAM-Aも内皮細胞と血小板との相互作用を介して動脈硬化の進展に重要な膜タンパク質と報告されている.Pセレクチンは初期の血小板の内皮細胞や白血球の接着に重要と考えられている. Pセレクチンは白血球上のP-selectin glycoprotein ligand 1(PSGL1)との結合を増強し,プラーク形成に重要な白血球の活性化,接着,浸潤に関与する.内皮細胞,血小板Pセレクチンともに動脈硬化の進展に関わるが,その寄与率は内皮細胞の方が高い.
【血小板放出反応と動脈硬化】
血小板のα顆粒には様々なサイトカインやケモカイン,凝固因子・成長因子が含まれており,局所の内皮細胞活性化や白血球活性化を介して動脈硬化に関与する.platelet-derived growth factor (PDGF)は血小板から抽出された平滑筋に対する強力な遊走・増殖因子である.PDGFシグナルは動脈硬化巣の平滑筋遊走に重要な因子であるが,他の細胞からも放出されるために血小板由来のPDGFがどの程度関与しているかについては明らかではない.血小板第4因子 (PF4: CXCL4)やRANTESなども,動脈硬化の進行に重要と考えられている.濃染顆粒放出異常を来たすHermansky-Pudlak症候群のモデルマウスではα顆粒放出反応は正常でも血小板・白血球結合が抑制され,血栓形成だけでなく炎症や新生内膜過形成が抑制される.濃染顆粒の物質は,局所のautocrineまたはparacrine的な血小板活性化,内皮細胞活性化を制御することで動脈硬化の進展に関与していると考えられている.その他,血小板から放出される生理活性脂質であるトロンボキサンA2 (TXA2) やスフィンゴシン1-リン酸(S1P)も動脈硬化の進展・抑制に重要であることが報告されている.
図表
参考文献
1) 大森司:止血機構と動脈硬化,日本血栓止血学会誌 24:17-29,2013.