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  • 深部静脈血栓症に対する抗凝固療法

    2015/02/17 作成

    解説

    【初期治療】
     抗凝固療法は、症候性の深部静脈血栓症(DVT)や肺塞栓症の死亡率および再発率を有意に低下させるため、治療の第一選択となっている。1960年代に行われた無作為試験(1)において、ヘパリン治療は無治療と比較して死亡率を著しく低下させ、その有用性が示されている。

    A.未分画ヘパリンによる治療(2)
     DVTと診断されれば最初に効果発現が迅速な未分画ヘパリンを投与する。5,000 Uを急速静注し、その後、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)がコントロール値の1.5-2.5倍となるように調節する。未分画ヘパリンを静注する代わりに1日2回の皮下投与も可能である。

    B.フォンダパリヌクスによる初期治療
     非経口Xa阻害薬であるフォンダパリヌクスは、従来の未分画ヘパリンと比較して作用に個人差が少なく1日1回の皮下投与で済み、モニタリングが必要ないため簡便に使用できる。わが国では、2011年3月からフォンダパリヌクスがDVT治療に使用できるようになっている(3)。体重により投与量を決定し、1日1回皮下注射する(50kg未満:5mg、50kg以上100kg未満:7.5mg、100kg以上10mg)。腎から排泄されるため、対象例の腎機能には十分に注意する。


    【長期治療】

     未分画ヘパリンフォンダパリヌクスの投与に引き続きワルファリン内服を開始する。ワルファリンは未分画ヘパリンフォンダパリヌクスの投与初期から併用することが可能で、プロトロンビン時間の国際標準化比(PT-INR)が至適域に達した段階で未分画ヘパリンあるいはフォンダパリヌクスを中止する。至適治療域は海外ではPT-INR 2.0~3.0とされているが、わが国ではエビデンスはないが人種差を考慮して1.5~2.5としている。一方、ワルファリンの投与期間は可逆的な危険因子がある場合には3ヶ月間、先天性凝固異常症や特発性DVTでは少なくとも3ヶ月間のワルファリン投与を行ない、以後の継続の有無はリスクとベネフィットを勘案して決定する。また、癌など発症素因が長期にわたって存在する患者や複数回の再発を来たした患者ではより長期の投与を行なう。


    【新規経口抗凝固薬】

     海外ではDVTおよび肺塞栓症の治療を目的としたダビガトラン(RE-COVER試験(4))、リバーロキサバン(EINSTEIN DVT試験(5))、アピキサバン(AMPLIFY試験(6))、およびエドキサバン(HOKUSAI-VTE試験(7))の第Ⅲ相試験が実施され、いくつかの良好な結果が示されている。わが国ではエドキサバン(製品名リクシアナ)が、2014年9月にDVT及び肺血栓塞栓症の治療及び再発抑制の効能追加承認を取得している。
     DVTの治療では、従来、注射薬からワルファリンに切り替える段階でPT-INRの調節に数日を要していた。新規経口抗凝固薬(NOAC)は効果発発現が迅速で、投与後早期から安定した効果を発揮するため、入院治療期間の短縮が期待できる。
     また、重症例でない場合、DVT発症時からNOACで治療を開始し得る。DVTは外来治療が推奨されつつあり、発症早期からの歩行がより有用とされる(8)。NOACはモニタリングの必要がなく効果が安定しているため、外来で治療を開始する場合でも安全に投薬できる。
     ワルファリンによるDVT治療では、発症3ヶ月以降は血栓再発と出血のリスクが同程度となるため、多くの症例で長期投与を断念せざるを得ない。ワルファリンより明らかに出血リスクの少ないNOACは、DVT治療において長期に使用されていく可能性が高い。

    引用文献

    1) BARRITT DW, JORDAN SC: Anticoagulant drugs in the treatment of pulmonary embolism. A controlled trial. Lancet 1: 13091312, 1960.
    2) 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2008年度合同研究班報告),肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断・治療・予防に関するガイドライン(2009年改訂版).http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2009_andoh_h.pdf
    3) Nakamura M, Okano Y, Minamiguchi H, Munemasa M, Sonoda M, Yamada N, Hanzawa K, Aoyagi N, Tsujimoto H, Sarai N, Nakajima H, Kunieda T: Multidetector-row computed tomography-based clinical assessment of fondaparinux for treatment of acute pulmonary embolism and acute deep vein thrombosis in Japanese patients. Circ J 75: 14241432, 2011.
    4) Levine MN, Hirsh J, Gent M, Turpie AG, Weitz J, Ginsberg J, Geerts W, LeClerc J, Neemeh J, Powers P: Optimal duration of oral anticoagulant therapy: a randomized trial comparing four weeks with three months of warfarin in patients with proximal deep vein thrombosis. Thromb Haemost 74: 606611, 1995
    5) EINSTEIN Investigators, Bauersachs R, Berkowitz SD, Brenner B, Buller HR, Decousus H, Gallus AS, Lensing AW, Misselwitz F, Prins MH, Raskob GE, Segers A, Verhamme P, Wells P, Agnelli G, Bounameaux H, Cohen A, Davidson BL, Piovella F, Schellong S: Oral rivaroxaban for symptomatic venous thromboembolism. N Engl J Med 363: 24992510, 2010.
    6) Agnelli G, Buller HR, Cohen A, Curto M, Gallus AS, Johnson M, Masiukiewicz U, Pak R, Thompson J, Raskob GE, Weitz JI; AMPLIFY Investigators: Oral apixaban for the treatment of acute venous thromboembolism. N Engl J Med 369: 799808, 2013.
    7) Hokusai-VTE Investigators, Büller HR, Décousus H, Grosso MA, Mercuri M, Middeldorp S, Prins MH, Raskob GE, Schellong SM, Schwocho L, Segers A, Shi M, Verhamme P, Wells P: Edoxaban versus warfarin for the treatment of symptomatic venous thromboembolism. N Engl J Med 369: 14061415, 2013.
    8) Clive Kearon, Elie A. Akl, Anthony J. Comerota, Paolo Prandoni, Henri Bounameaux, Samuel Z. Goldhaber, Michael E. Nelson, Philip S. Wells, Michael K. Gould, Francesco Dentali, Mark Crowther, and Susan R. Kahn: Antithrombotic Therapy for VTE Disease: Antithrombotic Therapy and Prevention of Thrombosis, 9th ed: American College of Chest Physicians Evidence-Based Clinical Practice Guidelines, Chest 141 suppl, e419S-e494S, 2012.