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グリコサミノグリカン・プロテオグリカン glycosaminoglycan、proteoglycan
解説
【概要】
グリコサミノグリカン(glycosaminoglycan:GAG)は、ウロン酸(例外としてケラタン硫酸はガラクトース)とアミノ糖の二糖単位の繰り返し構造を有する直鎖状の多糖である。ヒアルロナン(ヒアルロン酸とも呼ばれる)やデルマタン硫酸、コンドロイチン硫酸、へパラン硫酸(heparan sulfat:HS)、ケラタン硫酸が知られており、ヒアルロナン以外は硫酸化されている。その水溶液は粘稠(ムコ: muco)であるためムコ多糖とも呼ばれる。ヒアルロナン以外は通常、コアタンパク質に結合しており、このGAGで修飾されたタンパク質分子をプロテオグリカン(proteoglycan:PG)と呼ぶ。コアタンパク質は種々のドメインで構成されており、GAGの機能とは別に独自の機能が示唆される。PGは分泌型(細胞外マトリックス成分)あるいは細胞膜結合型として存在する。また、セルグリシンのようにマスト細胞や血小板、好中球、好酸球の顆粒に含まれており、血小板や細胞の活性化で放出されるPGもある。GAGおよびPGは細胞間の潤滑や緩衝に働くだけでなく、増殖因子やサイトカイン、および、それらの受容体、細胞外マトリックス成分、接着分子などと相互作用し、細胞の機能や増殖、接着、移動を制御・調節している。こうした機能に、時期・組織特異的なGAGの硫酸化パターンが関与することが知られている。血液凝固阻害因子として重要なアンチトロンビンは、HSやヘパリンに結合し、その活性が増強される。
【HSとHS結合型PG】
HSは、ウロン酸(グルクロン酸またはイズロン酸)とグルコサミンの二糖単位の繰り返し構造を有し、硫酸化されている領域(硫酸化ドメイン)とその間の硫酸化が殆ど見られない領域から成る。グルクロン酸とN–アセチルグルコサミンの二糖繰り返しが基本構造であり、約50%を占める(図1)。グルクロン酸のイズロン酸への異性化と硫酸化パターンの組み合わせによる糖鎖配列の多様性が、様々な機能タンパク質に対する結合特異性に寄与しているものと考えられている1)。HSは、GAGの中で最も複雑な硫酸化パターンを有しており、現在、800を超える結合タンパク質が同定されている2)。HSを結合したPGとして、分泌されて細胞外マトリックスに存在するパールカンやアグリン、XVIII型コラーゲン、細胞膜貫通型のシンデカン(syndecan-1 ~ 4)、GPI(グリコシルホスファチジルイノシトール)アンカー型で細胞膜に結合しているグリピカン(glypican-1 ~ 6)が知られている。血管内皮細胞のグリコカリックス(glycocalyx)は、血管内腔側に存在する糖鎖が豊富なマトリックス層であり、PGや糖タンパク質、糖脂質などで構成されるが、PGとしては主にシンデカン(syndecan-1 ~ 4)とグリピカン(glypican-1)が含まれる。ヘパリンはHSの一種で同じ二糖繰り返し構造を有するが、より高度に硫酸化されており、アンチトロンビン結合部位(3-O –硫酸化グルコサミンを含む配列)が豊富である。HSは殆どすべての細胞で合成されるが、ヘパリンはマスト細胞で合成され、その顆粒中にPG型(セルグリシン)あるいは遊離の状態で貯蔵されている。
【HSの生合成】
HSの生合成では先ず、コアタンパク質の特定のセリン残基にキシロース、ガラクトース、ガラクトース、グルクロン酸が順に結合して四糖鎖が形成され、次に、N–アセチルグルコサミンおよびグルクロン酸の二糖繰り返し構造が伸長していく。その後、硫酸化ドメインの形成は、二機能酵素である脱アセチル化/N–硫酸化酵素(N-deacetylase/N-sulfotransferase:NDST)が、N–アセチルグルコサミンをN–硫酸化グルコサミンに変換することで始まる。この反応は、その後のHS修飾に不可欠である。ヒトおよびマウスにおいて、NDSTには4つのアイソフォーム(NDST1~4)が同定されている。N–硫酸化されたグルコサミンの非還元末端側のグルクロン酸は次に、HS C5-エピメラーゼによりイズロン酸に異性化される。また、HS 2-O –硫酸化酵素(HS2ST1)とHS 6-O –硫酸化酵素(HS6ST1~3)によって、イズロン酸(稀にグルクロン酸)のC2位とグルコサミンのC6位が硫酸化される。さらに、稀に、HS 3-O –硫酸化酵素(HS3ST)によりグルコサミンのC3位が硫酸化される。HS3STには特異性の異なる7つのアイソフォーム(HS3ST 1, 2, 3A, 3B, 4, 5, 6)が同定されており、アンチトロンビン結合に重要な3-O–硫酸化は、HS3ST1とHS3ST5が触媒する3、4)。細胞外に分泌されたHSは、HS 6-O–エンドスルファターゼ(SULF1, 2)によって6-O –硫酸基が除去され、タンパク質リガンドとの結合性が調節されることが知られている5)。スルファターゼの多くはリソソームに局在し、GAGや硫酸化糖脂質などの硫酸基を除去することでこれらの分解に関わっているが、同定されている17種のスルファターゼのうちSULF1とSULF2だけは細胞外に分泌されることが明らかにされている。
【HS生合成酵素ノックアウトマウスの表現型】
HSの糖鎖骨格の合成酵素やNDST1、HS C5-エピメラーゼ、HS2ST1などの欠損マウスは胎性または出生直後の致死である。NDST2の欠損マウスは、正常に出生し、各組織や骨格筋、生殖能にも異常は無く、また、肝臓におけるHSのN–硫酸化の程度も野生型と変わらないが、マスト細胞のヘパリン硫酸化の著減とマスト細胞の形成・機能異常が観察される。3-O-硫酸化酵素HS3ST-1の欠損マウスでは、アンチトロンビン結合性と抗凝固活性を有するHSは野生型に比べて著減していたが、予想に反して、このマウスは血栓傾向を示さなかった。最近、血管壁HSは生体内において、ヘパリンとは異なり、アンチトロンビンの凝固プロテアーゼ阻害活性の増強には機能しない可能性が報告されている6)。他方、アンチトロンビンの血管壁HSへの結合は抗炎症作用を惹起することが示唆されているが、実際に、HS3ST1欠損マウスでは炎症反応が亢進する。
図表
引用文献
- Melo-Filho CC, Su G, Liu K, et al.: Modeling interactions between Heparan sulfate and proteins based on the Heparan sulfate microarray analysis. Glycobiology 34: cwae039, 2024
- Gómez Toledo A, Sorrentino JT, Sandoval DR, et al.: A Systems View of the Heparan Sulfate Interactome. J Histochem Cytochem 69: 105-119, 2021
- Wander R, Kaminski AM, Wang Z, et al.: Structural and substrate specificity analysis of 3-O-sulfotransferase isoform 5 to synthesize heparan sulfate. ACS Catal 11: 14956-14966, 2021
- Deng JQ, Li Y, Wang YJ, et al.: Biosynthetic production of anticoagulant heparin polysaccharides through metabolic and sulfotransferases engineering strategies. Nat Commun 15: 3755, 2024
- Wang Z, Benicky J, Mukherjee P, et al.: Development of a method to measure the activity of heparan sulfate 6-endosulfatase for biological research. Glycobiology 35: cwaf012, 2025
- Biswas I, Panicker SR, Lupu F, Rezaie AR.: Physiological significance of antithrombin D-helix interaction with vascular GAGs. Blood Adv 9: 966-978, 2025