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  • ステント血栓症 stent thrombosis

    2015/02/17 作成

    解説

     虚血性心疾患に対する経皮的冠動脈インターベンションは、バルーンによる狭窄部位の拡張から始まった。しかし、バルーンによる拡張のみでは、急性冠閉塞 (5~10%) や慢性期の高い再狭窄率 (30~50%) が問題となった。その問題を解決するために開発されたものが、ベアメタルステント (bare metal stent: BMS) であり、冠動脈解離や急性冠閉塞を1%未満に減少させたが、20~30%の高い再狭窄率が依然として残った。そのため、BMSの弱点であるこの再狭窄率を改善させるべく第一世代の薬剤溶出性ステント (drug-eluting stent: DES) が登場し、再狭窄率は10%未満にまで減少した。

     ステント血栓症 (stent thrombosis: ST) は、これらのBMSやDESが血栓閉塞をきたすものであり、発症率は年率0.4~0.6%と稀であるが、一度発症した場合の30日死亡率は10~25%と高い。そのため、ST予防目的でアスピリンとチエノピリジン系抗血小板薬の併用、いわゆる2剤併用抗血小板療法 (dual anti-platelet therapy: DAPT) が提唱され、その有効性が多数報告されてきた。STは発症時期により、ステント留置後1カ月以内に起こる亜急性ステント血栓症 (subacute stent thrombosis: SAT)、1カ月~1年以内の遅発性ステント血栓症 (late stent thrombosis: LST)、1年以降に発症する超遅発性ステント血栓症 (very late stent thrombosis; VLST) に分類される。

     STの発生機序には多くの要因が関与しており、SATは、BMS・DESいずれも手技的要因の関与が大きいとされている。BMSでは、2~3カ月で新生内膜と内皮がステント表面を被覆し血栓形成を惹起しにくくなるため、その時期までに発症することが多い。その一方、DESは塗布された薬剤によりステント内の内皮化が遷延するためLSTやVLSTが問題となる。

     また、患者関連因子 (ステント留置後早期のDAPTの中断、糖尿病、慢性腎臓病、急性冠症候群など)、病変関連因子 (びまん性病変、小血管、分岐病変、血栓性病変、石灰化病変など) 、ステント関連因子 (ステント拡張不良・断裂、ステント端の解離など) がST発症に関与する。さらには、病理組織学的検討によりDESのLST・VLSTでは、ステント内の内皮化遅延やDES薬剤・ポリマーに対する過敏・炎症反応、血管陽性リモデリング、新規動脈硬化 (neoatherosclerosis) がその発症へ強く関与していることが明らかにされた。

     近年、さまざまな改良がなされ、より生体適合性の高い第二世代のDESと呼ばれるステントが主流となりST発生が抑制されることが報告されており、真にST減少に寄与するか今後の大規模臨床試験の結果が待たれる。

    参考文献

    1) 宮山友明,小林欣夫:PCI(バルーン,ステント),循環器疾患最新の治療 2014-2015:103-108,2014.
    2) 安定冠動脈疾患における待機的PCIのガイドライン(2011年改訂版),循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010 年度合同研究班報告):1-52,2011.