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フィブリノゲン測定法 fibrinogen assays
解説
【測定法と測定原理】
1)トロンビン時間法・Clauss法
被験血漿中のフィブリノゲン量が、一定量のトロンビンを添加した際に得られる凝固時間と逆相関を示す現象を測定原理としている。
トロンビン時間法はクエン酸ナトリウム加血漿に一定量のトロンビン(一般に2〜10単位/mL程度)を添加し、その凝固時間をもとに血漿中のフィブリノゲンを定量する。一方、Clauss法では被験血漿を緩衝液で通常10倍に希釈し、高濃度のトロンビン(原法では25単位/mL、現在では一般に100~200単位/mL程度)を添加する。Clauss法はこの点でトロンビン時間法と厳密に区別される。一般的に血漿中のアンチトロンビンやヘパリンコファクターIIによる阻害を受けず、治療濃度の未分画ヘパリンや直接抗トロンビン薬による影響も受けにくいが、比較的低濃度のトロンビンを含有する試薬では抗トロンビン作用が顕現し偽低値をきたす場合があることに留意する。
フィブリノゲン濃度は、WHO国際標準品(Clauss法により値付けされている)にトレーサブルな標準血漿を用いて検量線を作成し算出する。光学的あるいは力学的検出機構を備えた自動分析装置による測定が推奨されており、定量下限はおよそ30~50mg/dLであるが、厳密には測定試薬や分析装置により異なる。なお光学的検出を利用する場合は血漿の乳糜など比色分析に影響を与える要素が測定に干渉する場合があるため注意する。本法はフィブリノゲンの定量法であるが、トロンビンによるフィブリノゲンからフィブリンへの転化反応を観察するものであり、測定値はフィブリノゲンの機能的な量(functional/clottable amount)であることに留意する。別記したフィブリノゲン抗原量と区別するためClauss法(トロンビン時間法)の測定値は「Fg:C」と表記される。
2)プロトロンビン時間同時測定法(PT-Fg法/PT-derived法)
光学的検出機構と専用の解析ソフトウェアを搭載した分析装置において、プロトロンビン時間(PT)の測定の際に得られる光学的変化量からフィブリノゲン濃度を測定する手法である。フィブリノゲン測定に係る測定コストを節減できる点が大きなメリットである。
PT-Fg法はフィブリノゲンを直接定量する方法ではなくその測定値は推算値に近く、Clauss法のような機能的な量を反映した定量値ではない。一般的にClauss法の測定値に比して高値傾向となることが知られており、Clauss法に比べると分析装置および試薬間差も大きい。また、抗凝固療法あるいは血栓溶解療法を受けている患者ではPT-Fg法によるフィブリノゲン量は偽高値となる場合がある。また、機能異常症である異常フィブリノゲン血症においては一般的に過大評価となる。これらの理由からフィブリノゲン異常を疑った場合の最初のスクリーニング検査としては推奨されていない。
3)免疫学的測定法
ヒトフィブリノゲンに対する特異的な抗体を用いた免疫学的反応に基づいてその抗原量(絶対量)を定量する手法である。自動分析装置への適応性や測定時間が短いことから現在では(ラテックス凝集)免疫比濁法による測定が主流である。
免疫比濁法ではフィブリノゲンの機能を無視してその抗原量を測定するため、後述するフィブリノゲン異常症の鑑別診断には必須の検査法である。ただし、フィブリノゲン抗原量測定用の国際標準品は存在しない(WHO国際標準品の値付けはClauss法によりなされている)ため、通常Clauss法に用いる標準品と同一のものを使用し、その表示値を抗原量相当として利用する必要がある。
なおフィブリノゲン抗原量はClauss法(トロンビン時間法)により定量した機能的フィブリノゲン量(Fg:C)と区別するためFg:Agと表記する。
【基準範囲】
一般的に150~350mg/dLあるいは200~400mg/dLが用いられる。
【異常値を示す病態とそのメカニズム】
フィブリノゲンは急性期反応蛋白であり、炎症や悪性腫瘍を背景とした病態で容易に増加する。一方で、肝臓が産生臓器であるため肝不全等の肝合成能低下により低下をきたすほか、播種性血管内凝固(DIC)のような消費性凝固障害による減少は臨床的にもしばしば認められる。これら二次性の異常のほか、明らかな併存疾患を認めないにも関わらず低値を示す場合は遺伝子異常による先天性フィブリノゲン異常症も鑑別にあがる。
なお、先天性フィブリノゲン異常症は主に4つのタイプに分類され、量的異常である無フィブリノゲン血症(afibrinogenemia)と低フィブリノゲン血症(hypofibrinogenemia)、質的異常である異常フィブリノゲン血症(dysfibrinogenemia)あるいは異常低フィブリノゲン血症(hypodysfibrinogenemia)に区別される。無フィブリノゲン血症の場合はフィブリン析出をエンドポイントとする凝固時間法が成立しないため、同時にPTやAPTTが測定不能となりこの点で判別しやすい。スクリーニング検査として実施したClauss法でフィブリノゲンの低値が認められた場合、それにはこれら量的異常あるいは質的異常いずれかの可能性があることに留意する。
【異常値に遭遇した時の対応】
Clauss法による測定で低値を認めた場合はまず産生の低下あるいは消費性の低下を考える。肝合成能の指標としてはPTやAPTT、アンチトロンビン(AT)活性のほか生化学検査値などが参考となるが、PTやAPTT・AT活性は消費性にも低下することを念頭に置く。消費性の低下であれば通常フィブリン・フィブリノゲン分解産物(FDP)の増加を認める。
これら産生および消費性による低下を疑わない場合で、特にフィブリノゲンの低下のみが異常として認められる場合は、(先天性)フィブリノゲン異常症を疑いフィブリノゲン抗原量を測定する。すなわち、Clauss法により測定したFg:Cと免疫学的測定法により測定したFg:Agと、その比(Fg:C/Fg:Ag=比活性)を指標としてフィブリノゲン異常症を鑑別する。
1)無フィブリノゲン血症:Fg:CおよびFg:Agのいずれも測定感度未満となる。あわせてPTやAPTTなどの凝固時間法に基づく測定がいずれも測定不能となる。一般的に出血症状を主訴とするが、時として血栓症を呈するケースがあるため注意が必要である。
2)低フィブリノゲン血症:Fg:CおよびFg:Agがともに正常下限未満に低下し、一方で比活性は保たれている場合は量的異常である低フィブリノゲン血症と考える。一般に無症候あるいは軽度の出血傾向を認める。
3)異常フィブリノゲン血症・異常低フィブリノゲン血症:Fg:Cは正常下限未満に低下を認める一方でFg:Agは健常レベルに保たれ、ゆえに比活性の低下を認める場合は機能異常症(分子異常症)である異常フィブリノゲン血症と考える。一方で特にFg:CおよびFg:Agの低下とともに比活性の低下も認める(Fg:Agは正常下限未満に低下を認め、Fg:Cはさらに低値を示す)場合は、異常低フィブリノゲン血症と考える。異常(低)フィブリノゲン血症の場合はその約半数が無症候と考えられているが、出血傾向のみならず血栓傾向を示す場合があるため注意が必要である。
参考文献
I. Mackie, A. Casini, M. Pieters, R. Pruthi, C. Reilly-Stitt, A. Suzuki: International council for standardisation in haematology recommendations on fibrinogen assays, thrombin clotting time and related tests in the investigation of bleeding disorders. Int J Lab Hematol. 2024; 46: 20–32.
A. Casini, A. Undas, R. Palla, J. Thachil, P. de Moerloose: Diagnosis and classification of congenital fibrinogen disorders: communication from the SSC of the ISTH. J Thromb Haemost. 2018; 16(9): 1887-1890.