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    2015/02/17 作成

    解説

    【概要】
     播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation、DIC)は、様々な基礎疾患によって凝固系が活性化され、全身の微小血管内に血栓(微小)が多発する病態であり、重症化すると微小循環不全による臓器障害や血小板、凝固因子の消費による出血傾向を来す症候群である。DICの基礎疾患としては、急性白血病、敗血症、固形癌等の多くの疾患1)が知られているが、基礎疾患によってDICの病態は大きく異なることが最近明らかになっている。敗血症に伴うDICでは、生体侵襲によって引き起こされる全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome、SIRS)がDICの引き金となり、線溶抑制型DICへと発展してゆく。


    【病態・病因】

     敗血症によって引き起こされたSIRSは、その侵襲が強かったり治療が奏功しなかったりすると、重症化してDICや多臓器不全を惹起する。その原因には、感染に伴って産生されるTNF、IL-1、IL-6などの炎症性サイトカインが関与しており、これらのサイトカインが凝固系を活性化する。すなわち、炎症反応と凝固反応は、プロテアーゼ活性型受容体(protease-activated receptors、PARs)を介して互いにクロストークしており、SIRSの重症度が増せばDICの合併頻度も増すことになる。
     敗血症に伴うDICの臨床的な特徴としては、臓器障害が出現しやすいことである(出血症状は希)。その理由の一つとして、炎症性サイトカインによってプラスミノゲンアクチベータインヒビター1型(plasminogen activater inhibitor-1、PAI-1)の産生が亢進して線溶系が抑制されるためと考えられている。その結果、敗血症性DICによって発生した微小血栓の溶解能が低下して循環不全に陥り、臓器障害が進行してゆくことになる。


    【検査と診断】

     敗血症性DICの止血学的特徴としては、凝固活性化のマーカーであるトロンビン-アンチトロンビン複合体(thronbin-antithrombin complex、TAT)は著明に増加するが、線溶活性化のマーカーである血中フィブリノゲン・フィブリン分解産物(FDP)Dダイマー(D-dimer)の上昇は軽度である。血中のフィブリノゲン(fibrinogen、Fbg)値は低下しないことが多く、また臓器症状が顕在化している重症例ではアンチトロンビン(AT)が50%以下に低下することも多い。診断には、旧厚生省DIC診断基準や急性期DIC診断基準が本邦では用いられている。



    【治療の実際】

     敗血症に伴うDICの治療に関しては、日本血栓止血学会学術標準化委員会DIC部会ガイドライン作成委員会による「科学的根拠に基づいた感染症に伴うDIC治療のエキスパートコンセンサス」1)を参考にしていただきたい。ただ、アンチトロンビン(AT)製剤は投与量が極めて高用量であった外国文献を評価2,3)して比較的高い推奨度となっているが、現在本邦で保険的に使用可能な量で同様の効果が期待できるかは不明である。また、最近臨床使用が可能となった遺伝子組換えトロンボモジュリン製剤は、エキスパートコンセンサス検討時には未承認であったため、評価の対象には入っていなかった。しかし、2014年の一月に追補4)され、AT製剤とほぼ同等の推奨度となっている。

    引用文献

    1) 丸山征郎,坂田洋一,和田英夫,朝倉英策,岡島研二,丸藤哲,内場光浩,射場敏明,内山俊正,江口豊,岡本好司,小倉真治,川杉和夫,久志本茂樹,小池薫,古賀震,関義信,窓岩清治,真弓俊彦,日本血栓止血学会学術標準化委員会DIC部会:科学的根拠に基づいた感染症に伴うDIC治療のエキスパートコンセンサス,日本血栓止血学会誌 20:77-113,2009.
    2) Warren BL, Eid A, Singer P, Pillay SS, Carl P, Novak I, Chalupa P, Atherstone A, Pénzes I, Kübler A, Knaub S, Keinecke HO, Heinrichs H, Schindel F, Juers M, Bone RC, Opal SM; KyberSept Trial Study Group: Caring for the critically ill patient. High-dose antithrombin III in severe sepsis: a randomized controlled trial. JAMA 286: 18691878, 2001.
    3) Kienast J, JuersM, Wiedermann CJ, Hoffmann JN, Ostermann H, Strauss R, Keincke HO, Warren BL, Opal SM; KyberSept investigators: Treatment effects of High-dose antithrombin without concomtant heparin in patients with severe sepsis with or without disseminated intravascular coagulation. J Thromb Haemost 4: 90-97, 2005.
    4) 和田英夫,坂田洋一,丸藤哲,岡本好司,朝倉英策,窓岩清治,射場敏明,内山俊正,江口豊,川杉和夫,久志本茂樹,小池薫,古賀震,関義信,真弓俊彦,日本血栓止血学会学術標準化委員会DIC部会:科学的根拠に基づいた感染症に伴うDIC治療のエキスパートコンセンサスの追補,日本血栓止血学会誌 25:123-125,2014.