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プロテインS欠乏症・異常症 protein S deficiency / abnormality
解説
【病態・病因】
先天性プロテインS(PS)欠乏症・異常症は、血液凝固制御因子・PSの量的・質的異常に伴い血中PS活性の低下を来たし、主に静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism: VTE)の発症リスクとなる血栓性素因(thrombophilia)である。しかし、症状の程度は変異アレル由来PS蛋白質の機能異常によって異なる。ホモ接合体や複合ヘテロ接合体でPS活性が著しく減少している場合は新生児期に電撃性紫斑病を発症することがあるが、活性低下が軽度の場合は成人期まで無症状の場合もある。不完全浸透の常染色体優性遺伝形式で伝達される。
【分類】
血中PSの約60%はC4b結合蛋白質(C4BP)と複合体を形成し、残りの約40%が遊離型として存在し、遊離型PSのみが活性化プロテインC(APC)コファクター活性を示すことから、総PS抗原量(遊離型PSとPS- C4BP複合体の総和)、遊離型PS 抗原量、PS活性の評価が必要になる。
Ⅰ型:PS活性、遊離型PS 抗原量、総PS抗原量が低下、Ⅱ型:PS活性が低下し、遊離型PS抗原量、総PS抗原量は正常、Ⅲ型:PS 活性、遊離型PS抗原量が低下し、総PS抗原量は正常の3種類に分類される。PS欠乏症の大家系の解析で同じ遺伝子型の表現型としてⅠ型とⅢ型が出現することが示された。遊離型PS濃度が、PSだけでなくb鎖を有するC4BP(C4BPβ+)の濃度によっても影響を受けることがⅢ型の要因と推定される。したがって、Ⅰ型とⅢ型はPS蛋白量低下、Ⅱ型がPS比活性(活性/蛋白量)低下と考えられる。
【疫学】
先天性PS欠乏症の頻度は欧米白人健常者約0.2%、VTE 症例約2%であるのに比べ、日本人ではそれぞれ1-2%、19-29%と著しく高い。その原因の一つとして、Ⅱ型PS欠乏症を呈するPS Tokushima変異(p.Lys196Glu, K194E)の存在が考えられる。PS Tokushima変異では第2EGFドメイン内のLys155がGluに変化し、APCコファクター活性が野生型の約60%に低下する。PS Tokushima変異のヘテロ接合体は日本人健常者の1.3-1.8%に存在し、VTEのリスクを3.7−8.6倍上昇させる。
【検査と診断】
スクリーニング検査では、凝固時間法による血漿PS活性、モノクローナル抗体を用いた遊離型PS抗原量、総PS抗原量が一般に測定される。測定中にPS-C4BP複合体が解離することがあるためPS活性と遊離型PS抗原量の診断特性が悪く、特にⅡ型欠乏症の診断を困難にしている。最近、自動分析装置を用いたPS比活性測定系が開発され、PS-Tokushima変異などのⅡ型欠乏症の診断が容易になった。確定診断はPS遺伝子(PROS1)解析によってなされるが、相同性の高い偽遺伝子(PROS2P)に注意する必要がある。報告されたPS遺伝子変異の6〜7割がミスセンスおよびナンセンス変異であり、全エクソンにほぼ均等に分布している。
【治療の実際】
一般的な血栓症治療として、急性期には未分画ヘパリン(欧米では低分子量ヘパリン)や合成Xa阻害薬が投与され、それに引き続きワルファリンの内服を開始する。少なくとも3ヶ月間のワルファリン投与が推奨されているが、以後の継続の有無は再発リスクを考慮して決定する。ワルファリンに代えて直接経口抗凝固薬(DOAC)が投与される場合もある。ワルファリン服用時にはPS活性、遊離型PS抗原量、総PS抗原量は低値となる。合成Xa阻害薬やDOAC投与時には凝固時間法によるPS活性が偽高値となることがあるので注意する(自動分析装置を用いたPS比活性測定系は影響を受けない)。
【その他のポイント・お役立ち情報】
PS欠乏症のVTE発症には、手術、外傷、不動、悪性腫瘍、妊娠などの環境要因が影響する場合が多い。血中PS濃度は閉経前女性で低値であり、妊娠中・産褥期、エストロゲン含有経口避妊薬やエストロゲン製剤内服時にはさらに低下するため、PS Tokushima変異保有者ではVTEのリスクが高まる。
参考文献
1) 津田博子: プロテインC、プロテインS、血管内皮プロテインCレセプターの基礎と臨床, 一瀬白帝、丸山征郎、和田英夫編, 新・血栓止血血管学 –抗凝固と線溶-: 金芳堂; 2015:22-30.
2) 津田博子:特発性血栓症.臨床血液,58 (10): 279-287, 2017.