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  • 後天性フォン・ヴィレブランド病 (Heyde症候群を除く) acquired von Willebrand disease

    2015/02/17 作成

    解説

    【病態・病因】 

     後天性フォン・ヴィレブランド病(aVWD)は種々の病因によりフォン・ヴィレブランド因子(VWF)の量的/質的異常が引き起こされる稀な疾患であり、先天性VWDに類似した出血症状を呈する。その病因は多様で、主なものとして①VWFに対する自己抗体の産生、②高分子量VWFマルチマーの減少、③ずり応力亢進によるADAMTS13のVWF分解促進、④VWF因子の産生並びに分泌障害などがあり、これらを引き起こす基礎疾患として①リンパ増殖性疾患や自己免疫疾患、②骨髄増殖性疾患(主に真性多血症並びに本態性血小板血症)やウイルムス腫瘍、③骨髄増殖性疾患、心臓弁膜症、人工心臓、④甲状腺機能低下症などが挙げられる。これらの疾患により発症する後天性VWDの病型にはVWFが減少するタイプ1型(①、④)と高分子量VWFが選択的に減少するタイプ2A型(①、②、③)があり、その臨床症状は皮膚粘膜の出血症状と外傷や術後の止血困難である。
    【疫学】
     男女差は無く、発症年齢の中央値は62歳と比較的高齢である。有病率は0.04-0.13%と報告されているが、軽症例が見逃されている可能性が高く、実際の頻度はもう少し高いと推測されている。さらに先進国と発展途上国では患者登録システムの有無や診断に必要な検査水準が異なることも考慮する必要がある。
     
    【検査と診断】
     臨床症状は先天性VWDと極めて類似するも比較的軽症であり、約30%の症例では無症状との報告がある。好発年齢は中高年であり、その特徴として出血症状の既往や家族歴がないこと、さらに前述した基礎疾患を認める場合に本疾患を疑う。出血時間活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)は先天性VWDと異なり、正常な症例もあるためその診断価値は少なく、確定診断には第VIII因子活性、VWF抗原量ならびにリストセチンコンファクター活性の測定が有用であり、多くの症例でこれらの低下が認められる。インヒビター測定は他の凝固因子と同様にBethesda法を用いてVWF活性の低下により診断できるが、比較的感度は低い。またELISA法を用いることで特異的VWF抗体IgGを検出することは可能である。さらに病型としてタイプ1型と2A型の鑑別にはVWFマルチマー解析が必須となる。
    【治療の実際】
     治療の第一選択はデスモプレシン投与であり、その有効性は32%と報告されている。次に無効例に対しては凝固第VIII因子/VWF複合体製剤を投与する。この際、VWFの半減期は先天性VWDの場合と比較して短縮していることからその有効期間は短いことに注意が必要である。活動性出血を呈する症例では止血効果の高い第VIII因子/VWF複合体製剤の投与を最初から考慮する。これらの治療が奏功しない難治例では遺伝子組換え活性型第VII因子製剤が有効であり、ほとんどの症例で止血可能である。自己抗体保有例では免疫グロブリン製剤やステロイド剤の併用が有効であり、無効例に対しては保険適応外であるがリツキシマブの有用性が報告されている。甲状腺機能低下例では甲状腺ホルモン剤の投与が必要となる。

    参考文献

    1) 石黒精:後天性血友病A,後天性von Willebrand病,小児内科 46:235-238,2014.
    2) Stone ME, et al: Current management of von Willebrand disease and von Willebrand syndrome. Curr Opin Anesthesiol 27: 353-358, 2014.
    3) Tiede A, Rand JH, Budde U, Ganser A, Federici AB: How I treat the acquired von Willebrand syndrome. Blood 117: 67776785, 2011.