大分類
  • 線溶
  • 小分類
  • 病態
  • 炎症と線溶

    2022/11/30 更新
    2015/02/17 作成

    解説

    概要
    プラスミノゲンはフィブリンと結合するだけでなく、細胞表面にある様々な受容体と結合する。これらの受容体はプラスミンを細胞表面にとどめ、炎症、血栓、腫瘍などに関与する。マクロファージの遊走は線溶系に依存する。

    プラスミノゲンアクチベータインヒビター1(PAI-1)は組織ではウロキナーゼ型プラスミノゲンアクチベータ(uPA)を阻害することで細胞外基質の分解を抑制する。炎症と線溶系の関係は炎症に関与する液性因子による線溶系因子発現への影響と、線溶系因子が炎症に及ぼす影響を考慮する。PAI-1は血管内皮細胞や平滑筋細胞に豊富に発現している。急性炎症ではインターロイキン(IL)-1や腫瘍壊死因子(TNF)などのサイトカインによりPAI-1発現が誘導されて局所の線溶能は低下し血栓の増大や、細胞外マトリックス分解の低下により動脈硬化を促進する。脂肪細胞もPAI-1を発現し、肥満やメタボリック症候群における血中PAI-1の増加に関わる。


    プラスミノゲン受容体と炎症

    細胞表面にあるプラスミノゲン受容体にはアネキシンA2とS100A10 のヘテロ四量体、エノラーゼ(enolase)1、ヒストン(histone)H2B、Plg-RKT等がある。これら受容体はプラスミンを細胞表面にとどめ、炎症、血栓、腫瘍を含む様々な生命現象に関与する。
    Plg-RKT は2010年に報告されたC末端にリジン残基をもつプラスミノゲン受容体で膜貫通型のタンパクで、プラスミノゲンアクチベータ、プラスミノゲンを共局在化する。ヒトの末梢血の単球、リンパ球、顆粒球などにあるものの赤血球にはみられない。マウスで創傷治癒に関わる。


    病態との関わり

    細胞表面でプラスミノゲン受容体として働く可能性のあるタンパク質は局所のタンパク融解を制御し、炎症に重要な働きをしている。血栓形成‐溶解プロセスと炎症の病態の関連の解析がさらに進めば、炎症の制御、自己免疫疾患、腫瘍など病態における新しい薬物の開発に役立つことが期待される。静脈血栓症やサイトカインストームとの関わりは深い。新型コロナウイルス感染症では微小血栓の形成と二次線溶の亢進により、D-dimerが上昇し、重症化の指標となる。サイトカインストーム等により、血中PAI-1が増加すると線溶系は微小血栓による臓器障害になる。

    参考文献

    1) Lina Ny, Robert J Parmer, Yue Shen, Sandra Holmberg, Nagyung Baik, Assar Bäckman, Jessica Broden, Malgorzata Wilczynska, Tor Ny, Lindsey A Miles: The plasminogen receptor, Plg-R KT, plays a role in inflammation and fibrinolysis during cutaneous wound healing in mice. Cell Death Dis 11: 1054, 2020.

    2) Lakmali Munasinghage Silva, Andrew Gary Lum, Collin Tran 1, Molly W Shaw, Zhen Gao, Matthew J Flick, Niki M Moutsopoulos, Thomas H Bugge, Eric S Mullins: Plasmin-mediated fibrinolysis enables macrophage migration in a murine model of inflammation. Blood 134: 291-303, 2019.

    3) Subhradip Mukhopadhyay, Tierra A Johnson, Nadire Duru, Marguerite S Buzza, Nisha R Pawar, Rajabrata Sarkar, Toni M Antalis: Fibrinolysis and Inflammation in Venous Thrombus Resolution. Front Immunol 10: 1348, 2019.

    4) 服部浩一,高橋 聡,長田太郎,ハイジッヒ ベアテ:線溶系と炎症性疾患,血栓止血誌31巻4号:388-393,2020.

    5) 堀内久徳,森下英理子,浦野哲盟,横山健次 他:COVID-19関連血栓症アンケート調査の最終結果報告,血栓止血誌32巻3号:315-329,2021.

    6) 浦野哲盟:線溶系から見たCOVID-19の病態,血栓止血誌32巻1号:46-50,2021.