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  • 造血幹細胞移植後のTMA

    2015/02/17 作成

    解説

     造血幹細胞移植(HSCT) は、悪性腫瘍に対する超大量化学療法後に骨髄の造血組織の再構築を図る有益な移植治療法である。しかし、移植関連の合併症をきたした際には治療に難渋するケースが多く、その対処の成否が移植成績の向上につながるといっても過言ではない。移植後の止血・凝固系に関する合併症のうち、血栓傾向の合併症に関わる因子は種々存在するが、中でも最も重要なのが、血管内皮細胞の状態である。凝固系を調節しているアンチトロンビン(AT) IIIやプロテインC(PC)の低下あるいは線溶系を阻害するplasminogen activater inhibiter (PAI)-1の増加等の多くの血管内皮細胞関連因子の異常は、持続的な血栓傾向を招来し、類洞閉塞症候群(veno-occlusive disease, VOD)や血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy, TMA)などの凝固異常病態への要因の一つとなりうる。


    TMA

     TMAは、HSCTの主要な合併症のひとつであり、その死亡率は60~90%にも及ぶとされている。TMAの病態は、血管内皮細胞障害と血小板凝集に伴う微小血管閉塞性病変が主体であり、血栓性血小板減少性紫斑病 (thrombotic thrombocytopenic purpura, TTP)や溶血性尿毒性症候群(hemolytic uremic syndrome, HUS)との類縁疾患と位置づけられている(参照「典型(志賀毒素)HUS」)。したがって病態の正確なメカニズムに関してはいまだに解明されていないものの、TTPと同様に血液内に循環しているフォン・ヴィレブランド因子(VWF)を切断する酵素(ADAMTS13)活性の低下が重要な要因であると考えられている。HSCTに関連するTMAの特殊な原因としては、GVHD予防薬であるシクロスポリンやタクロリムスの使用があげられる。TMAの診断は、1)血小板数低下の存在 、2)微小血管性溶血性貧血 、3)LDHの上昇、 4)血液塗抹標本上の破砕赤血球の存在 、5) ADAMTS13活性の低下 、の5つの項目によって確定される。しかし、上記基準を部分的にしか満たさない非定形的TMAも存在するので注意が必要である。TMAは移植後の発症率としては6~8%であり、移植後早期に発症することが多く、遅発性になるほど予後は不良である。発症時期に関係なく、できるだけ早期に治療を実施することが、高い死亡率を回避する上において重要であるとされている。

     TMAの治療としては、確立されたものはないものの、血漿交換や抗血栓療法(抗血小板薬・プロスタサイクリン;PGI2アンチトロンビン製剤)の実施が報告されている。

    TMAに対する新規治療戦略  

     播種性血管内凝固症候群(DIC)治療薬として登場した遺伝子組換えトロンボモジュリン製剤(rTM)が、現状ではVOD・TMAに対して本邦未承認ではあるもののVOD・TMAに対する新たな治療戦略の可能性として注目されている。HSCT後はヘパリンを投与しているにもかかわらず、可溶性Eセレクチン(sE-selectin)やvascular cell adhesion molecule-1(sVCAM-1)などの血管内皮細胞障害マーカーの増加がみられる。さらに、高サイトカイン状態に起因するマイクロパーティクル(MP)やhigh mobility group box (HMGB) 1 proteinもまた著明に増加する。rTM投与例ではこれらのマーカーの上昇が抑制されることから、ヘパリンに代わるVOD・TMA治療法として期待される。