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大動脈瘤とDIC aortic aneurysm and disseminated intravascular coagulation
解説
- 大動脈瘤とDICの関係
大動脈瘤におけるDICの合併は1967年に初めて報告され、現在では大動脈瘤のDIC合併率は22.1%とされる。大動脈瘤がDICを引き起こす機序は未解明だが、異常な血流や炎症が関与していると考えられる。
- 大動脈瘤におけるDICの検査所見
大動脈瘤に関連するDICは「線溶亢進型DIC」に分類され、出血傾向が強いのが特徴である。DICの診断には以下の検査が重要である:
- 血小板数:低下するが程度はさまざま(5-10万/μL程度が多い)。
- プロトロンビン時間(PT)・活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT):通常DICでは延長するが、線溶亢進型DICでは正常~軽度延長の場合もある。APTTは時に短縮することもある。
- フィブリノゲン:100mg/dL以下に低下しやすい。
- FDP(フィブリン・フィブリノゲン分解産物)・D-dimer:ともに著増し、FDPの方がより顕著に上昇(FDP/D-dimer比の上昇)。
- アンチトロンビン:通常のDICでは低下することが多いが、大動脈瘤のDICでは正常であることが多い。
- TAT(トロンビン–アンチトロンビン複合体):凝固活性化マーカーであり、大動脈瘤に限らずすべての病型のDICで上昇する。
- PIC(プラスミン-α2プラスミンインヒビター複合体):線溶活性化マーカーとして使用され、著増する。
- α2プラスミンインヒビター(α2PI):著減し、50%以下では大出血のリスクが高まる。
- 大動脈瘤におけるDICの治療選択
大動脈瘤におけるDIC治療は基礎疾患の治療が最優先となる。しかし、原疾患が治療困難な場合やDICが悪化するケースもある。治療の選択肢は以下の通り:
- 補充療法:血小板輸血や新鮮凍結血漿輸注、血液凝固第XIII因子製剤の使用。
- 抗凝固療法:未分画ヘパリン、低分子ヘパリン、ナファモスタット、トロンボモジュリン製剤。DOAC(ダビガトラン、アピキサバン、リバロキサバン、エドキサバン)もDICに有効との報告あり。
- 抗線溶療法(線溶亢進型DICの治療):トラネキサム酸を抗凝固薬と併用。単独使用は血栓症リスクがあるため避ける。
- 第XIII因子製剤の使用:止血困難な症例で有効とする報告もある。
また、出血症状がない、侵襲的な処置の予定がない場合には経過観察も適切な選択肢である。
- 注意点
大動脈瘤におけるDIC治療は十分なエビデンスがなく、エキスパートの判断が必要となることもある。適切な治療が行われない場合、大出血や血栓症のリスクが高まるため、検査体制・コンサルト体制を常日頃から整えておく必要がある。
参考文献
1) Fernadez-Bustamante A, et al: Disseminated intravascular coagulopathy in aortic aneurysms. Eur J Int Med 16: 551-556, 2005.
2) 辻隆弘他:トラネキサム酸が有効であった大動脈解離に伴う慢性播種性血管内凝固症候群,臨床血液 54:769-771,2013.