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大動脈瘤とDIC
解説
【概要】
真性大動脈瘤と大動脈解離は別の病態であり大動脈解離の慢性期に大動脈径が拡張した場合を解離性大動脈瘤と称する。“動脈瘤”と播種性血管内凝固症候群(DIC)を論ずる場合には、動脈瘤の病態を明確にする必要がある。真性動脈瘤の病因は動脈硬化性と先天性・炎症性に分類されるが、両者が同じ機序でDICを発症するか否か不明である。
【病態・病因】
1.真性大動脈瘤
大動脈内膜の粥状(アテローム)動脈硬化が最大の病因である。高血圧・糖尿病に起因する血管内皮細胞障害が粥状硬化の成因であり粥状硬化に伴い形成される粥腫(プラーク)内に組織因子が大量に存在する。病変進行に伴い粥腫数が増加し動脈内腔面全面を覆い、亀裂・破綻に伴い出血・血腫(血栓)形成が起こる。動脈瘤局所での血管内皮細胞障害に伴う抗血栓性低下、粥腫内組織因子の血管内流入、粥腫破綻に伴う組織因子血管内露出等による血小板の粘着・凝集と外因系凝固反応亢進がDICの発症要因と推定される。線溶亢進を呈する症例もあり、粥腫破綻により形成された血栓への二次線溶と考えられるが詳細は不明である。
2.大動脈解離
大動脈内膜が亀裂・剥離し真腔と偽腔(解離腔)が形成され、亀裂部が血流入口部(エントリー)であり、解離腔内に血流もしくは血腫が存在する動的病態である。解離急性期には内膜亀裂部修復のための凝固亢進、解離腔内止血のための凝固亢進が起こる。このため急性大動脈解離での凝固線溶系変化は亀裂部および解離腔内止血・血栓形成過程を見ている可能性が高くDIC診断は困難である。早期偽腔血栓閉鎖型では、解離腔内血栓に対する二次線溶が起こりFDP/Dダイマーが異常高値を取るが、これは線溶亢進型DICではない。
大動脈解離の主病因は真性大動脈瘤同様に粥状硬化症である。このため、内科的治療を基本とするB型大動脈解離では、亜急性期から慢性期に粥状硬化と解離腔修復のための凝固線溶亢進が相乗的に作用してDICが発症すると推定される。
【治療の実際】
基礎病態である動脈瘤および大動脈解離の外科的治療が基本であるが、手術を可能にするための術前DIC治療あるいは手術適応のない症例へのDIC治療が必要となる。補充療法と抗凝固療法が重要であるが、抗線溶療法の適応に関しては議論が多い。抗線溶療法は真性大動脈瘤および大動脈解離のいずれにも使用されているが、亜急性期・慢性期の大動脈解離症例では解離腔内の不安定血栓がDICの誘因の可能性があり、解離腔内血栓安定化のために使用される事が多い。抗線溶薬は血栓止血学の専門家の意見を参考に抗線溶療法適応の有無と使用方法を決めるべきである。
参考文献
1) Fernadez-Bustamante A, et al: Disseminated intravascular coagulopathy in aortic aneurysms. Eur J Int Med 16: 551-556, 2005.
2) 辻隆弘他:トラネキサム酸が有効であった大動脈解離に伴う慢性播種性血管内凝固症候群,臨床血液 54:769-771,2013.