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プロテインC欠乏症・異常症 protein C deficiency/abnormal protein C
解説
【病態・病因】
プロテインC(PC)欠乏症・異常症は、生理的凝固阻止因子・PCの量的/質的異常に伴い血中PC活性低下を来す疾患で、主に静脈、時に動脈の血栓症発症リスクとなり若年性血栓傾向を示す血栓性素因(thrombophilia)の一つである。PCはビタミンK(VK)依存性セリンプロテアーゼの前駆体で主に肝臓で合成される。血液凝固反応で生ずるトロンビンは、血管内皮細胞上のトロンボモジュリンと結合すると凝固促進能を失う一方、PCを活性化PC(APC)に活性化してプロテインSの補因子のもと活性化凝固第V、活性化凝固第VIII因子を不活化することで逆に凝固抑制に働く。他の血栓性素因と同様に、PC欠乏症・異常症だけではなく、感染、外傷、手術、高脂血症、妊娠、ストレスなど他の血栓症リスクが重複して血栓症は発症する。
【疫学】
日本人での発生頻度は欧米人と同程度の人口10万人あたり1~2人。先天性PC欠乏症・異常症は家族性/若年性静脈血栓症患者にみられ、その原因はPC遺伝子(PROC)のミスセンス点突然変異が多く、ほとんどはヘテロ接合体で稀にホモ接合体/複合へテロ接合体のPROC変異がみられる。新生児期に電撃性紫斑病など重篤な血栓症を発症することがある。また、複数の日本人家系にみられる変異(PC Nagoya, PC Tochigi, PC Osaka10など)がある。
【検査と診断】
PC欠乏症は血漿中PC活性値低下をもって診断されるが、後天性と先天性のものがある。前者はPCが肝臓で合成されるビタミンK(VK)依存性因子であることからワルファリン服用、VK欠乏症、肝機能障害などによる。後者はPROC異常によるもので、抗原量と活性値の両方が低下する量的異常(Type I)と、抗原量は正常で活性値のみが低下する質的異常(Type II)とに分けられる。より確定的に診断が可能な遺伝子解析は、研究的側面が強くその施行の際には各施設倫理委員会の承認のもと十分なインフォームドコンセントを得て進める必要がある。【治療の実際】
一般的な血栓症の治療として、急性期にはヘパリン類(注射)、慢性期にはワルファリンなどの経口抗凝固薬が使われる。また、先天性PC欠乏症の重症血栓症患者への補充療法として血漿由来APC製剤投与が保険適応となっている。
【その他のポイント・お役立ち情報】
PCはプロトロンビンや凝固第IX因子、凝固第X因子など他のビタミンK依存性凝固因子に比べて血中半減期が短い。そのため、PC欠乏症患者ではワルファリンの急速飽和がかえって一過性の過凝固状態を誘発して微小血栓による皮膚壊死(warfarin induced skin necrosis)を起こす危険性がある。したがって、ワルファリン開始時にはヘパリン類と併用しワルファリンが治療域になった時点でヘパリン類を中止する、あるいはワルファリン投与を少量から開始して徐々に治療域へと増量することが重要である。
参考文献
1) 山本晃士:プロテインC(PC)欠乏症,血栓止血誌 12(2):149-153,2001.