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  • ビタミンK依存性凝固因子 vitamin K dependent coagulation factors

    2015/02/17 作成

    解説

    【ビタミンK依存性タンパク質】
     ビタミンKは脂溶性ビタミンの一種で、グルタミン酸残基(Glu)をγ-カルボキシグルタミン酸残基(Gla)に変換する酵素であるγ-カルボキラーゼの補因子として作用する。ビタミンK依存性タンパク質はこのGla殘基をもつタンパク質で、凝固因子の中では凝固第II因子(プロトロンビン)、凝固第VII因子、凝固第IX因子および凝固第X因子が含まれる。Gla残基は立体構造を保持する上で重要であるとともに、カルシウムイオン依存的に活性化血小板膜表面などに出現しているリン脂質に結合する上で重要な役割を果たしている。凝固因子の多くは酵素活性発現にリン脂質との結合が重要であるため、Gla殘基を有しないビタミンK依存性タンパクは凝固活性をほとんど有しない。
     ビタミンK依存性凝固因子の半減期は因子によって異なり凝固第VII因子が最も短い。このためプロトロンビン時間(PT)ワルファリンなどのビタミンKアンタゴニストの投与量の指標として用いる。一方、ワルファリンの抗凝固作用は凝固第X因子や凝固第II因子の低下によるところが大きいので、PTは必ずしも治療効果を発揮している訳ではない。
     ビタミンKが欠乏している状態では、Gla残基が未成熟な状態で凝固因子が賛成される。この様な未成熟な凝固因子をPIVKA(protein induced by Vitamin K absence or antagonists)と呼び、PIVKAの後に凝固因子の番号(もしくは略号)を付ける。例えばプロトロンビンになるべきタンパク質がPIVKAとなった場合はPIVKA-IIと呼ぶ。PIVKA-IIは一部の肝細胞癌の主要マーカーとして使用されているが、ワルファリン服用中は異常高値を示す。


    【ビタミンK依存性抗凝固因子】

     凝固因子のみならず、生体内の重要な凝固制御因子であるプロテインCおよびプロテインSもビタミンK依存性タンパク質である。これらの因子もまたビタミンK欠乏状態やワルファリン服用時に低下する。プロテインCは半減期が6時間と凝固第VII因子に次いで短い。このためワルファリン投与後1-3日の間は、プロテインCが低下し抗凝固能は低下しているにもかかわらずプロトロンビンなどが低下し抗凝固作用が発現する前であるため、結果として血栓形成に傾く場合がある。ワルファリン投与の原因となる血栓症が増悪したり、微小血栓による皮膚壊死(ワルファリン壊死)が認められる場合もある。このためワルファリン導入時にはヘパリンなどの抗凝固療法の併用が行われる。


    【その他のタンパク質】

     骨代謝において重要な役割を果たしているオステオカルシンもビタミンK依存性タンパク質である。妊娠中期の妊婦に対してワルファリン等を投与すると胎児の骨形成に影響を与える可能性があり、妊娠中期の妊婦に対してはワルファリンは禁忌となっている。逆にビタミンK製剤は骨粗しょう症の治療薬剤として使用されている。
     その他プロテインZなどがビタミンK依存性タンパク質として知られている。


    【異常値を示す場合】

     ビタミンK欠乏状態で総てのビタミンK欠乏因子は低下する。また先天的にビタミンKエポキシド還元酵素(VKOR)の欠損症/異常症では低値を示す場合がある。ただし同疾患であっても、還元型ビタミンKが十分量補充されている場合は、ビタミンKサイクルは機能し、ビタミンK依存性タンパク質は低下しない。

    図表

    参考文献

    1) 山崎泰男,森田隆司:プロトロンビンの基礎と臨床,一瀬白帝他編,血栓・止血・血液学ー21世紀の国民病・血栓症制圧のために.中外医学社,2005,295-304.
    2) 白幡聡:ビタミンK欠乏症の臨床,血栓止血誌 18(6):584-587,2007.