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感染と凝固
解説
敗血症は感染症に由来した全身性炎症反応症候群(SIRS)とされる。古典的には感染・免疫と凝固系の関わりは単球の膜上における組織因子の発現による外因系凝固の活性化として認識されていた。近年、微生物特有の自然免疫を活性化する分子の総称としてpathogen-associated molecular patterns(病原体関連分子パターン:PAMPs)、死細胞やダメージを受けた細胞から遊離する自然免疫を活性化する分子を総称したdamage-associated molecular patterns(傷害関連分子パターン:DAMPs)の概念が提唱され、感染・免疫と凝固系の関わりの概念が大きく進歩した。Toll様受容体 (Toll like receptors, TLRs) はPAMPs/DAMPsの受容体として自然免疫の活性化に寄与するが、血小板膜上にはTLR1・TLR2・TLR4・TLR6・TLR8・TLR9が存在し機能していることより、血小板はPAMPs/DAMPsを感知する細胞と捉えることもできる。感染により生体内に侵入したグラム陰性菌のリポポリサッカライド(LPS)(TLR4のリガンド)の作用により血小板は血小板-好中球複合体を形成して、その結果、活性化した好中球はNETs (neutrophil extracellular traps)の放出により細菌を血管内でトラップする(参照:NETs形成と血小板)。また、NETs の構成成分であるヒストンは代表的なDAMPsの一つであるが、コアヒストンであるヒストンH4・H3が直接の血小板凝集作用を有すること、また血小板膜上のTLR2、TLR4を介して血小板から放出されるポリリン酸依存性に内因系凝固カスケードを活性化させることが報告されている。NETsの生理的役割は循環血中における細菌の捕獲と広がりを防ぐことにあると考えられるが、NETosisは微小血管におけるイベントと考えられ、病態生理学的には過度のNETosisは播種性血管内凝固症候群(DIC)、微小循環障害、多臓器不全の原因になると考えられる。実際に重症敗血症患者の血漿は健常人に比べてより多くのcell-free-DNAを含み、かつ内因系凝固活性化能の高いことが報告されている。
参考文献
1) 血小板と炎症:橋口 照人, 医学のあゆみ: 251(2), 165-168; 2014
2) NETosisとDIC:橋口 照人,医学のあゆみ: 238(1), 10-12; 2011