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PAMPs/DAMPs PAMPs/DAMPs
解説
【概要】
獲得免疫系の監視対象は非自己抗原である。一方、自然免疫系の監視対象は「感染の兆候」ならびに「組織損傷の兆候」と考えられている。自然免疫系は、獲得免疫系のように多彩な受容体レパートリーを有しているわけではなく、限られた数の受容体で、感染ならびに組織損傷の兆候をパターン認識する。この際、感染の兆候は外来微生物に特有で共通の構成成分(pathogen-associated molecular patterns: PAMPs)という形で、組織損傷の兆候はダメージを受けた細胞や細胞外基質から放出される成分(damage-associated molecular patterns: DAMPs)という形で、パターン認識受容体によって察知される[1]。PAMPsの代表例としては、グラム陰性菌の細胞壁の構成成分であるエンドトキシン(lipopolysaccharide: LPS)、鞭毛の構成成分であるフラジェリン、ウイルスの二重鎖RNA(dsRNA)、真菌のβ-グルカンなどが挙げられ、また、宿主細胞の核内タンパク質であるhigh-mobility group box 1(HMGB1)、ミトコンドリアに含まれているホルミルペプチド(fMLP)、エネルギー通貨であるアデノシン三リン酸(ATP)、核酸最終代謝産物である尿酸などが細胞外に放出されると、DAMPsとして認識される。このように、自然免疫系はPAMPs/DAMPsの存在を、獲得免疫系は非自己抗原の存在を監視していて、総体として、感染性の非自己および組織傷害性の非自己に対する防御網を構築している。
【病態との関わり】
PAMPsおよびDAMPsの存在を察知した自然免疫細胞は、炎症反応、獲得免疫反応、血栓形成を活性化する。これは原始的な生体防御機構であり、炎症反応によって感染部位や組織損傷部位に援軍を呼び寄せ、血栓形成によって病原微生物や有害物質の拡散を防いでいると考えられる。このような自然免疫細胞が先導する形の血栓形成は、免疫学的血栓形成(immunothrombosis)と呼ばれ、感染防御に重要である[2]。特に、感染初期の血栓形成を抑制すると、細菌の拡散が助長されることが報告されている[3-5]。しかしながら、血栓によって血管が閉塞すると、組織の還流障害をきたすことから、immunothrombosisはその範囲が拡大するにしたがって宿主の不利益も大きくなり、制御可能な範囲を超えて拡大した際には播種性血管内凝固症候群(DIC)になると考えられている。
引用文献
1) 伊藤隆史:炎症に起因する血栓症の病態解明~新規メディエーターとしてのPAMPs/DAMPs~,日本血栓止血学会誌 24(6):675-679,2013.
2) Engelmann B, Massberg S. Thrombosis as an intravascular effector of innate immunity. Nat Rev Immunol 13: 34-45, 2013.
3) Sun H, Wang X, Degen JL, et al. Reduced thrombin generation increases host susceptibility to group A streptococcal infection. Blood 113: 1358-64, 2009.
4) Massberg S, Grahl L, von Bruehl ML, et al. Reciprocal coupling of coagulation and innate immunity via neutrophil serine proteases. Nat Med 16: 887-96, 2010.
5) Wong CH, Jenne CN, Petri B, et al. Nucleation of platelets with blood-borne pathogens on Kupffer cells precedes other innate immunity and contributes to bacterial clearance. Nat Immunol 14: 785-92, 2013.