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  • 高分子キニノゲン(HMWK) high molecular weight kininogen(HMWK)

    2022/05/07 更新
    2015/04/22 作成

    解説

    1)分子量、血中濃度
    高分子キニノゲン(high molecular weight kininogen: HK)は、Fitzgerald factorとも呼ばれる、主として肝臓で産生される626個のアミノ酸からなる分子量約120 kDaの一本鎖血漿タンパク質で、血中濃度は約70 µg/mLである。

     

    2)構造と機能
    HKは、凝固第XI因子や血漿プレカリクレインと複合体を形成して血中を循環しており、創傷などにより陰性荷電が露呈したとき、HKはドメイン5H内にあるhistidine-rich domainを介して陰性荷電に結合する。これにより同様に陰性荷電に結合し、活性化されて生成した第XIIa因子とともに、陰性荷電上でHK、凝固第XI因子およびプレカリクレインの4因子が濃縮されることになる。続いて、陰性荷電表面上で、第XIIa因子による凝固第XI因子やプレカリクレインの活性化が起こり、生成した第XIa因子は凝固第IX因子を活性化することにより凝固カスケードの逐次的活性化によるフィブリン生成を誘引する。陰性荷電には血管壁の創傷により露呈されるコラーゲンをはじめ様々なものが報告されているが、最近では血小板が活性化されることで放出されるポリリン酸が注目されている。同時に生成したカリクレインはポジティブフィードバック機構により凝固第XII因子を活性化するとともに、HKを分解することにより9個のアミノ酸からなるブラジキニンを生成し、ブラジキニンは血管透過性を亢進させることにより炎症性の浮腫を惹起する。遺伝性血管性浮腫はカリクレインによるHK分解によりブラジキニンが過剰に生成することにより発症する遺伝性の疾患であり、C1-インヒビターや第XII因子の異常症患者で認められる。最近では、HK遺伝子上の一塩基変異に基づく1アミノ酸置換によるgain-of-functionに伴う遺伝性血管性浮腫の発症例が認められている。ヒト血中には、低分子量キニノゲンも認められるが、それはキニノゲン遺伝子のalternative splicingで生成する。また、ごく最近では、生成したカリクレインが直接第IX因子を活性化することも報告されている。

     

    3)ノックアウトマウスの表現型
    キニノゲン欠損マウスが作成されている。キニノゲン欠損マウスでは凝血学的異常は認められず、尾静脈切断後の出血時間では、野生型マウスとの間に有意な差を認めなかった。しかしレーザーにより動脈を傷害した後の閉塞時間は、野生型マウスに比較してキニノゲン欠損マウスで閉塞時間が延長していた。HKは正常止血には影響せず、病的止血に影響することが考えられる。

     

    4)病態とのかかわり
    HK欠損症はFitzgerald factorの由来ともなったまれな疾患であり、患者では、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)の延長を示すが、通常、出血症状は認められない。これまでに、日本で脾臓梗塞を発症した患者でホモ接合体性のHK欠損症が報告されているが、その患者では、血中HK濃度が0.9%と著しく低下しており、APTTの著しい延長が認められている。

     

    5)その他のポイント・お役立ち情報
    HK分子上には、ブラジキニンに対応する領域に隣接してシステインプロテアーゼインヒビター活性を有する領域が存在することが知られている。その役割としては、炎症による局所傷害に伴い、細胞内から放出されるプロテアーゼによる過度の組織傷害から生体を保護する役割が推定されている。

    図表

    参考文献

    1) 中冨靖,中垣智弘:内因系血液凝固研究の現状―XII因子,XI因子及び高分子キニノーゲンの欠損マウスについてー,日本血栓止血学会誌 20323-3282009
    2)
    岡本貴行,鈴木宏治:血漿蛋白質の種類と機能 よくわかる病態生理5 血液疾患 第1版,日本医事新報社,107-1092007
    3) Fukushima N, Itamura H, Wada H, Ikejiri M, Igarashi Y, Masaki H, Sano M, Komiyama Y, Ichinohe T, Kimura S: A novel frameshift mutation in exon 4 causing a deficiency of high-molecular-weight kininogen in a patient with splenic infarction. Intern Med 53: 253-257, 2014.                                                                     
    4) Bork K, Wulff K, Rossmann H, Steinmulller-Magin L, Braenne I, Witzke G, Hardt J: Hereditary angioedema cosegregating with a novel kininogen 1 gene mutation changing the N-terminal cleavage site of bradykinin. Allegy 74: 2479-2481, 2019.                                                                                                                             5) Kearney KJ, Butler J, Posada OM, Wilson C, Heal S, Ali M, Hardy L, Ahnström J, Gailani D, Foster R, Hethershaw E, Longstaff C, Philippou H: Kallikrein directly interacts with and activates Factor IX, resulting in thrombin generation and fibrin formation independent of Factor XI. Proc Natl Acad Sci USA 118: e2014810118, 2021.