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  • 血漿プレカリクレイン plasma prekallikrein

    2021/11/06 更新
    2015/02/17 作成

    解説

    【分子量、血中濃度】
    血漿プレカリクレインは主に肝臓で作られる分子量約85-88 kDaのセリンプロテアーゼで、血中に分泌され25 μg/mlの濃度で存在し、その約80%が高分子量キニノーゲンと複合体を形成している。血液凝固XII因子により活性化された血漿カリクレインは、血液凝固や血圧の調節など様々な生体制御反応を触媒している。

    【構造と活性化機構】
    血漿プレカリクレインmRNAは638アミノ酸からなるタンパク質をコードしており、N末に19アミノ酸の分泌シグナルを持っている。残りの619アミノ酸は5つのドメインからなり、84から85アミノ酸からなるアップルドメインを4つ有し、C末に248アミノ酸からなる触媒領域を持っている。そして、血液凝固第XI因子とアミノ酸レベルで58%の相同性を有す。
    血漿プレカリクレインは活性化XII因子によりArg371-Ile372を切断されアップルドメインを含む重鎖と触媒領域を含む軽鎖に分かれた血漿カリクレイン(α-PKa)になる。さらに、α-PKaは自己活性化によりアップルドメイン内のLys140-Ala141を切断しβ-PKaを生成する。血漿カリクレインは凝固第XII因子を活性化し、さらにXIIaは血漿カリクレインを活性化するフィードバックループが存在する。

    【ノックアウトマウスの表現型】
    血漿カリクレインノックアウトマウスは血圧や心拍数などに異常はなく、塩化鉄により血栓形成を誘導しても血栓を作りにくく、血流も落ちにくい性質を持っている。

    【機能】
    1.高分子キニノゲンを切断し炎症性メディエーターであるブラジキニンを産生し、血管拡張による降圧作用、プロスタグランジン産生促進作用、血管透過性亢進作用などを発揮する。
    2.凝固第XII因子を活性化し、血液凝固シグナルを活性化する。
    3.主にウロキナーゼ型プラスミノゲンアクチベータ(uPA)を活性化することによりプラスミノゲンをプラスミンに変換する反応を促進し、フィブリンクロットを分解する線溶作用を発揮する。
    その他、補体系の活性化による生体防御やTGF-βの活性化による組織線維化などに関与する。

    【病態との関わり】
    血漿カリクレインの活性により遺伝性血液浮腫、糖尿病性網膜症、高血圧などを引き起こすことが知られている。遺伝性血管浮腫では血漿カリクレインの阻害活性を持つC1 esterase inhibitorの発現が低下することにより、高分子キニノゲンからブラジキニンの産生が亢進し浮腫が生じる。糖尿病網膜症においては細胞外のカルボニックアンヒドラーゼによりpHが上昇し、血漿カリクレインが活性化されブラジキニンの産生を介して網膜の障害が起こる。高血圧においては血漿カリクレインがレニン前駆体からレニンを産生し血圧を上昇させる。


    【その他のポイント】

    阻害剤としては、Soybean trypsin inhibitorやアプロチニンがよく使われ、血漿中での阻害因子としてはC1 esterase inhibitor、α2マクログロブリン(α2M)などが知られている。

    図表

    • 図1、血漿プレカリクレインのドメイン構造。血漿プレカリクレインはN末に分泌シグナルを持ち、4つのアップルドメインとC末に触媒領域を持っている。4番目のアップルドメインと触媒領域の間を血液凝固XIIa因子により切断され活性化される。また、2番目のアップルドメイン内を自己の活性により切断することにより、血液凝固活性などが低下する。

    参考文献

    1) Handbook of proteolytic enzymes “Plasma prekallikrein and kallikrein”. Academic Press, 1998, 147-153.
    2) Bird JE et al: Thromb Haemost 107(6): 1141-50, 2012.