- 大分類
-
- 血小板
- 小分類
-
- 機構
アラキドン酸カスケード
解説
【概要】
アラキドン酸は細胞膜のリン脂質のC2位にエステル結合している不飽和脂肪酸である.4つの二重結合を含む20個の炭素鎖からなるカルボン酸である.このアラキドン酸はホスホリパーゼA2(PLA2)により,脂質二重層から細胞内に遊離される(図1).遊離されたアラキドン酸は,アラキドン酸カスケードでプロスタグランジン(PG),およびロイコトリエン(LT)という生理活性脂質に代謝される.これら生理活性物質は産生細胞自体、あるいは周辺の細胞を刺激することにより組織,臓器あるいは生体に対する種々の調節機能を発揮する.
【代謝に重要な酵素】
PLA2:グリセロリン脂質の細胞膜リン脂質から2位のアシル鎖を加水分解し,リゾリン脂質と脂肪酸を生成する酵素である.PLA2は分泌性PLA2(sPLA2), 細胞質PLA2(cPLA2),Ca2+非依存性PLA2(iPLA2)のサブファミリーを形成し,アラキドン酸代謝にはcPLA2,sPLA2が重要である.
シクロオキシゲナーゼ(COX):膜結合酵素でCOX活性とペルオキシダーゼ活性を併せ持つ(図2).アラキドン酸はCOX活性によりPGG2,ペルオキシダーゼ活性によりPGH2に変換される.COX-1, -2, -3のアイソザイムが知られ,COX-1は全身に広く発現するが,COX-2は炎症など細胞刺激により誘導される.血小板ではCOX-1が主に発現している.アスピリンはCOX-1を速やかに阻害するが,COX-2への阻害効果は弱い.
リポキシゲナーゼ(LOX):アラキドン酸等の不飽和脂肪酸のペンタジエン構造を認識し1分子の酸素を添加する酸素添加酵素である.酸素添加位置に応じて5-, 8-, 12-, 15-LOXに分類される.ロイコトリエン合成には5-LOXが重要である.
【主な代謝産物】
PG: PGE2, PGD2, PGF2a, プロスタサイクリン(PGI2),及びトロンボキサンA2(TXA2)が含まれる.それぞれ,特異的な7回膜貫通型受容体に結合して細胞機能を調節する.血栓形成においては血小板活性化に伴うTXA2合成が,血小板活性化の増幅,血管収縮に重要である.一方,内皮細胞由来PGI2は血管拡張作用,ならびに血小板活性化抑制作用を持つ.
ロイコトリエン(LT)類:炎症やアレルギーの主要なメディエーターである.アラキドン酸が5-LOXにより5-ヒドロペルオキシ酸(5-HPETE)を経てLTA4に代謝され,その後,LTB4, ならびにペプチドLT(LTC4, LTD4, LTE4)に代謝される.それぞれLTB4受容体,2種類のペプチドLT受容体に結合する.
図表
参考文献
1) 脂質の分子生物学と病態生化学,蛋白質核酸酵素 Vol 44 No 8,共立出版株式会社,1999.