大分類
  • 血管
  • 小分類
  • 疾患
  • 類洞閉塞症候群/肝中心静脈閉塞症(SOS/VOD) sinusoidal obstruction syndrome (SOS)/hepatic veno-occlusive disease (VOD)

    2022/01/15 更新
    2015/02/17 作成

    解説

    1)病態・病因
    おもに同種造血細胞移植後に生じる重篤な合併症の一つで,有痛性の肝腫大,黄疸,非心原性の浮腫などを臨床的な特徴とする。肝障害誘発薬物であるモノクロタリンを用いた動物モデルの研究結果から,肝類洞内皮細胞が障害を受け,2次的に肝中心静脈が閉塞を来すことが示唆され,現在では類洞閉塞症候群(sinusoidal obstruction syndrome: SOS)の呼称が一般的に用いられるようになった1)。肝中心静脈周囲のゾーン3と呼ばれる領域は,薬物の解毒作用を有するグルタチオンの量が少ない。そのために,中心静脈近傍の類洞内皮細胞は,前処置に用いられる抗癌剤により比較的容易に細胞傷害を受けやすいと推測されている。類洞内皮細胞傷害を惹起する抗癌剤は多岐に及ぶ。起因薬として,移植前処置にも用いられるアルキル化薬であるブスルファンやサイクロフォスファミドがよく知られているが,その他,カルシニューリン阻害薬,炎症性サイトカインなどもSOSを惹起する。重症例では、類洞や静脈内のフィブリン沈着,線維芽細胞増殖,細胞外マトリックスへのコラーゲン沈着が起こり,類洞が閉塞され,門脈高血圧症,肝腎症候群,そして多臓器不全に陥る。


    2)疫学

    SOSの発症頻度や重症度は,患者背景,前処置,移植ソースなどの移植方法や診断基準の違いによって大きく影響を受ける。多施設前向き研究結果によると,同種造血細胞移植での発症率は8%,自家造血細胞移植では3%と報告されている2)。また,骨髄破壊的前処置による同種移植での発症率は約10%であるが,骨髄非破壊的前処理による同種移植では2%未満と低値である。


    3)検査と診断

    SOSの確定診断には肝生検による病理組織学的検査が必要であるが,通常は臨床的な徴候である1)有痛性肝腫大,2)総ビリルビンの増加,3)腹水貯留を伴う体重増加により診断される。SOSの診断には,SeattleグループのMcDonaldらの診断基準とBaltimoreグループのJonesらの診断基準が知られているが,いずれも特異度は高いが感度が低いとされる。SOS の診断感度を高め早期治療介入を可能にすることを目的に、2016 年に欧州造血細胞移植学会(EBMT: European Society for Blood and Marrow Transplantation)が成人移植患者を対象に新SOS 診断基準を発表した(表)。それによると、成人の典型的なSOS では高ビリルビン血症がほぼ必発であることからBaltimore 基準が継承された。また、移植後21 日よりも後に発症する遅発性SOS(late-onset SOS)の診断基準が新たに設けられた。遅発性 SOS の診断には高ビリルビン血症は必ずしも必要とされないが、その代わりにカテーテル検査での肝静脈圧勾配や腹部エコー検査での門脈血の逆流所見などが必要とされる3)

    4)治療の実際
    ブタの小腸粘膜DNAから作られたオリゴヌクレオチドの混合物、デフィブロチド(defibrotide: DF)は、無作為割付比較試験は行われていないものの、多臓器不全を伴う重症SOSの治療に有効であることが証明されている現時点で唯一の薬剤である。本邦においても2019年9月から重症又は重症化するおそれのあるSOSに対して使用可能となった。DFは抗凝固作用や線溶促進作用に加えて、血管新生作用や血管内皮保護作用も併せ持つことが試験管内の実験で示されている4)。17の臨床試験のメタ解析結果によると、多臓器障害を伴う重症SOSをDFで治療した場合の移植100日目の生存率は44%であった一方で、多臓器不全を伴わない患者を治療した場合のそれは71%であった5)。副作用として低血圧と出血に注意が必要である。現時点でSOSに対する予防投与は認められていない。

    図表

    引用文献

    1) DeLeve LD, Ito Y, Bethea NW, McCuskey MK, Wang X, McCuskey RS: Embolization by sinusoidal lining cells obstructs the microcirculation in rat sinusoidal obstruction syndrome. Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 284: G1045-1052, 2003.

    2) Carreras E, Bertz H, Arcese W, et al. Incidence and outcome of hepatic veno-occlusive disease after blood or marrow transplantation: a prospective cohort study of the European Group for Blood and Marrow Transplantation. European Group for Blood and Marrow Transplantation Chronic Leukemia Working Party. Blood 92:3599-3604, 1998.

    3) Mohty M, Malard F, Abecassis M, et al. Revised diagnosis and severity criteria for sinusoidal obstruction syndrome/veno-occlusive disease in adult patients: a new classification from the European Society for Blood and Marrow Transplantation. Bone Marrow Transplant 51: 906-12, 2016.

    4) Wang X, Pan B, Hashimoto Y, Ohkawara H, Xu K, Zeng L, Ikezoe T. Defibrotide stimulates angiogenesis and protects endothelial cells from calcineurin inhibitor-induced apoptosis via upregulation of AKT/Bcl-xL. Thromb Haemost 118: 161-173, 2018. 

    5) Richardson P, Aggarwal S, Topaloglu O, Villa KF, Corbacioglu S. Systematic review of defibrotide studies in the treatment of veno-occlusive disease/sinusoidal obstruction syndrome (VOD/SOS). Bone Marrow Transplant. 54: 1951-1962, 2019.

    参考文献

    1) 池添隆之:造血幹細胞移植後の血栓性病態.臨床に直結する血栓止血学改訂2版,2018,416-422.