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内皮細胞障害による向血栓性機序 prothrombotic mechanisms in endothelial injury
解説
【概要】
【機序】
(1) 内皮細胞の抗血栓性分子の発現低下
内皮細胞は一酸化窒素(NO)、プロスタサイクリン(PGI2)、アデノシン二リン酸(ADP)分解酵素といった血小板の活性化を抑制する因子、トロンボモジュリン、ヘパリン様分子、組織因子経路インヒビターといった血液凝固を阻害する因子、プラスミノゲンアクチベーターのような線溶を促進する因子を発現していて、血管内での血栓形成を防いでいる。内皮型NO合成酵素(eNOS)やトロンボモジュリンの発現は、層流環境下において転写因子KLF2によって誘導されるため、血流が乱れた際には、これらの抗血栓性分子の発現量が低下する[1]。また、各種炎症刺激によっても、これらの抗血栓性分子の発現量は低下する。
(2) 内皮細胞の向血栓性分子の発現誘導
急性の炎症刺激ならびにメタボリックストレスのような慢性の炎症刺激によって内皮細胞が活性化すると、exocytosisが亢進し、転写因子NF-kBを介した向炎症性・向血栓性分子の発現が誘導される。具体的には、フォン・ヴィレブランド因子(VWF)、Pセレクチン、CD40、ICAM-1、VCAM-1、αvβ3などが細胞表面に発現するようになり、これによって内皮細胞と血小板・白血球の接着が亢進する[2]。また、組織因子やPlasminogen activator inhibitor-1(PAI-1)の発現も誘導され、これによって血液凝固が進行し、線溶が抑制される。
怪我をして血管が破れたり、動脈硬化プラークが破綻したりすると、当該部位では内皮細胞が欠落し、血液は内皮下組織と接触する。これは血栓形成の強力な引き金となる。内皮下組織にはコラーゲンや組織因子が豊富に含まれていて、コラーゲン上にはVWFを介して血小板が粘着・凝集し、組織因子には血漿中の凝固第VII因子(FVII)が会合して、外因系血液凝固反応を進める。
引用文献
1) 伊藤隆史:トロンボモジュリンの基礎,日本血栓止血学会誌 25(1):55-60,2014.
2) Jackson SP: Arterial thrombosis–insidious, unpredictable and deadly. Nat Med 17: 1423-36, 2011.