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  • トロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT) thrombin-antithrombin complex(TAT)

    2025/06/03 更新
    2015/02/17 作成

    解説

    【概要】
    内因系または外因系が活性化されて凝固反応が進み、共通系反応において活性化第X因子(FXa)が生じると、FXaはプロトロンビン(FII)を活性化型のトロンビンへと変換させる。このとき、プロトロンビンフラグメント1+2 (F1+2)と呼ばれるペプチドが遊離しトロンビンが生成される。トロンビンは抗凝固因子の1つであるアンチトロンビン(AT)と結合して短時間で活性を失い、トロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT)が形成される(図)。トロンビン生成量は凝固活性化の程度を反映すると考えられているが、半減期は数秒~十数秒と極めて短い。トロンビン形成試験(TGT)などin vitroで凝固反応を活性化させてトロンビン生成量を測定する方法もあるが、in vivoでのトロンビン生成量を測定することは極めて難しい。一方、TATの半減期は数分~十数分程度と長くトロンビンの産生量と相関すると考えられるため、TAT測定によって凝固活性化の程度を把握することができ、TAT高値は凝固亢進状態を示す。なお、アンチトロンビンはトロンビンと11の比率で結合してトロンビンを不活化するが、ヘパリンによりその反応速度が高まることが知られている。TATは播種性血管内凝固(DIC)などの各種血栓性疾患の診断ならびに治療効果判定に用いられる。


    【基準値】
    35 ng/mL未満とすることが多いが、各測定キットの添付文書を確認すること。


    【測定法・測定原理】
    化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)、ラテックス凝集法、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)など


    【その他のポイント】
    TATは採血が困難で時間を要した場合などは、組織液が混入して採血管内で凝固反応が進み高値を示すことがある。Dダイマーなどのその他の凝固活性化を示すマーカーが正常である場合には偽高値の可能性を考え、再採血を行った上での再検を考慮する。
    明らかな凝固亢進がみられるにも関わらずDICなどでAT減少や機能低下をしている際にはTATが高値とならない場合がある。このような場合には可溶性フィブリン(SF)など他の凝固活性化マーカーを測定する。

    図表

    • 図 トロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT)

    参考文献

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