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先天性プロトロンビン欠乏症・異常症 inherited hypoprothrombinemia / dysprothrombinemia
解説
1)概念
先天的にプロトロンビン抗原量・活性共に低下しているものを低プロトロンビン血症、抗原量は正常であるが活性が低下しているものをプロトロンビン異常症と分類する。中には、低プロトロンビン血症とプロトロンビン異常症の複合ヘテロ接合体などの場合がある。
2)疫学
常染色体劣性遺伝形式をとるが、ホモ接合体あるいは複合へテロ接合体の発症頻度は、200万人に1人と極めて稀である。活性および抗原を完全に欠失する無プロトロンビン血症はいまだに報告がなく、致死的と考えられている。本邦では低下症のホモ接合体は1家系のみ、低下症/異常症の複合ヘテロ接合体はProthrombin Saitama、異常症はProthrombin Tokushima、Obihiro、Himi、Kawaguchi、などの報告がある。
3)症状および検査所見、診断
一般的にプロトロンビン低下症は、乳幼児期より皮下出血、筋肉内出血、関節内出血、頭蓋内出血、尿路出血などを認め、外傷や抜歯、手術後には止血困難を示す。新生児期に臍出血を呈する症例もある。一方、プロトロンビン異常症のProthrombin Himiは無症状で出血の既往はないが、その他の症例では低下症と同様の出血症状を示す。最近、アンチトロンビン(AT)との結合部位に異常を有するトロンビン異常が本邦から報告され、「AT抵抗性」による血栓性素因として注目されている2)。
ホモ接合体や複合ヘテロ接合体例では、プロトロンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)が著しく延長し、プロトロンビン活性はきわめて低い場合が多い。正常血漿との交差混合試験により、凝固時間の延長が補正され、いわゆる欠損症パターンを呈した場合、プロトロンビン欠損症と診断し、抗原量の測定により低下症あるいは異常症に分類する。
4)治療
ホモ接合体で出血に対して迅速な治療が必要な場合や、手術前に予防投与する場合に、補充療法を行う。本症の補充療法には、プロトロンビンを含む血漿由来凝固第IX因子(FIX)複合体製劑を用いる。プロトロンビンは血漿中半減期が3日間と比較的長く、血漿プロトロンビン活性は20~30%程度で止血レベルに入るため、30%を維持するように凝固第IX因子複合体製劑20~30 U/kgを投与する。しかし、血栓症を合併する危険性があるので、150%以上を超えないように注意する。
5)その他のポイント・お役立ち情報
1.後天性プロトロンビン血症
後天性には、肝機能障害、ビタミンK(VK)欠乏、ワルファリン服用などにより低下するので、鑑別の際に注意が必要である。たとえば、新生児や乳幼児期にPT・APTTの延長を伴う出血傾向を認めたためVK欠乏症を疑い、VKの補充を行ったが効果が得られない場合は、先天性プロトロンビン欠損症などの存在も早期に考慮し、適切な検査および補充療法を開始すべきである。
2.ループスアンチコアグラント・低プロトロンビン血症症候群(LA-HPS)
後天性プロトロンビン低下症としてはまれではあるが、ループスアンチコアグラント・低プロトロンビン血症症候群(LA-HPS)についても、鑑別疾患の中に入れておく必要がある。LAは臨床的には後天性の血栓症として重要であるが、まれに低プロトロンビン血症、あるいは血小板減少症や機能異常を合併した場合は出血する。
引用文献
1) Lancellotti S, Basso M, De Cristofaro R: Congenital prothrombin deficiency: an update. Semin Thromb Hemost 39: 596
2) 高木夕希,小嶋哲人:新規血栓性素因アンチトロンビン抵抗性の発見と今後の展望,日本臨床 72(7):1320-4,2014.