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  • PAI-1阻害薬 PAI-1 inhibitor

    2015/02/17 作成

    解説

     分子モデル的にplasminogen activator inhibitor-1(PAI-1)機能を阻害しようと試みる場合、次の3通りの方法が考えられる。

    (1)reactive center loop(RCL)を強制的にAシートに挿入させ、潜在型に移行させる。
    (2)逆にRCLがAシートに挿入出来ないようにし、組織型プラスミノゲンアクチベータ(tPA)ウロキナーゼ型プラスミノゲンアクチベータ(uPA)によりPAI-1を切断させ、切断型に移行させる。
    (3)tPAやuPA等の標的分子との結合を阻害する。
     初期の阻害薬では(1)を主眼として作成され、阻害薬とPAI-1との反応においは良好な結果が得られていたが、ビトロネクチンを添加するような条件では期待通りの反応を得ることができなかった。血中のPAI-1は専らビトロネクチンと結合した状態であるため、この点は非常に問題となった。現在わが国ではTM5509というPAI-1阻害薬が医師主導のもと臨床試験で使用されている。この阻害薬は(2)に着目して作成されている。サルを用いた動物実験においては、既存の抗血栓症薬と同様の薬効を示す一方、出血時間を延長しないことが明らかとなっており、今後のヒトへの利用が期待できる結果となっている。CDE-096はPAI-1と結合することでPAI-1の構造を可逆的に変化させ、tPAやuPAのみならずビトロネクチンがPAI-1と結合する反応を阻害することにより、阻害機能を発揮する。従ってこの物質は(3)を意図して作成されているが、臨床試験には至っていないようである。

     いずれの阻害薬も、動物実験では出血時間の延長が認められないので安全性が高いという結果を得ており、PAI-1活性を指標としたモニタリングの必要性については特に指摘されていない。しかしながら、ヒトの欠損症で明らかなように、そもそもヒトのPAI-1欠損症では出血時間や凝固時間の延長はなく、受傷後の創傷治癒過程での致死的な後出血が問題になる点を考慮すると、今後臨床使用されるPAI-1阻害薬の使用方法については特に注意を要することが想定される。

    参考文献

    1) 東北大学大学院医学系研究科附属 創生応用医学研究センター「3月7日:PAI-1阻害薬TM5509の非臨床試験に関するPMDA薬事戦略相談について」http://www.art.med.tohoku.ac.jp/introduction/drug/information/2012/03/pai-1tm5509pmda.html
    2) Li SH, Reinke AA, Sanders KL, Emal CD, Whisstock JC, Stuckey JA, Lawrence DA: Mechanistic characterization and crystal structure of a small molecule inactivator bound to plasminogen activator inhibitor-1. Proc Natl Acad Sci U S A 110: E4941-9, 2013.