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  • PAI-1欠損症 PAI-1 deficiency

    2015/02/17 作成

    解説

    【病態・病因】
     ヒトのpasminogen activator inhibitor-1(PAI-1)遺伝子はSERPINE1と呼ばれ、第7染色体(7q22.1)に約12 kbの領域で9つのエクソンでコードされている。欠損症の表現型は出生時の臍出血から始まり、偶発的な創傷の治癒過程での後出血、抜歯時の後出血、月経後期から始まる過多月経、自然妊娠後の妊娠中期以降(およそ妊娠12週頃から)からの大量性器出血とそれに続く自然流産、と多種多様な出血傾向を示す。これらの出血は激烈な症状となり、輸血なしでは救命は不可能であることがほとんどである。にも拘らず、平常時における出血傾向のスクリーニング検査(PT、APTT、FDP、フィブリノゲン、血小板)においては全く異常を示さない。

    【疫学】
     ヒトPAI-1欠損症の報告は非常に少なく遺伝子解析において確定している家系は現時点では2家系しか存在しない(2015年5月時点)。

    【検査と診断】
     一般的な臨床検査においてはPAI-1抗原量の上昇が血栓症やメタボリック症候群と関連していることから、低値のPAI-1抗原を判断するようには設定され
    ていないため、PAI-1抗原の欠損または機能低下によるPAI-1機能欠損症といった症例はかなりの部分見逃されていると考えられる。欠損症の検出のた
    めには特殊な線溶検査が必要であり、一般的な検査センターでは対応できない。また、確定診断には遺伝子解析も必要となるためやはり検査センターレベルでは
    対応できないため、専門研究機関での解析が必要となる。

    【その他のポイント・お役立ち情報】
     ヒトPAI-1欠損症が非常に少なく、抗原量あるいは活性低下状態の検出系が確立されていないにもかかわらず、in vivoでのPAI-1機能が広く認識されるようになった背景の一つにノックアウトマウスの活用があげられる。マウスのPAI-1遺伝子はSerpine1と呼ばれ、第5染色体(5 G2; 5)に約11 kbの領域で9つのエクソンでコードされている。近傍に存在する他の遺伝子の配置を含めてヒトの遺伝子と非常に類似している。従って、in vivoでのPAI-1機能を考慮するうえで十分にヒトとの相同性が担保されていると思われてきた。しかしながら、ノックアウトマウスは全く出血傾向を呈さず、創傷治癒も正常であり、妊娠出産においても何ら異常を呈さないことが判明している。これらのことを踏まえて、ヒトにおけるPAI-1の機能については再度考慮する必要があると考えられる。

    参考文献

    1) Iwaki T, Urano T, Umemura K: PAI-1, progress in understanding the clinical problem and its aetiology. Br J Haematol 157: 291298, 2012.