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  • plasminogen activator inhibitor-1(PAI-1)

    2015/02/17 作成

    解説

    【分子量、半減期、血中濃度】

     plasminogen activator inhibitor-1(PAI-1)は分子量約42700のタンパク質であり、主に血管内皮細胞と肝細胞から合成分泌されるが、脂肪細胞等ほかの細胞からの分泌合成も確認されている。血中のPAI-1は活性型(free form)、組織型プラスミノゲンアクチベータ(tPA)との複合体、活性潜在型などとして存在する。血中トータルPAI-1は正常状態では40 ng/ml以下と低値であるが(参照:PAI-1測定法)、敗血症等の急性炎症反応状態では著しい高値を示すことが知られている。活性型の血中半減期は数分だがビトロネクチンと結合することにより数時間は安定化している。

    【構造と機能】
     PAI-1はセリンプロテアーゼを特異的に阻害する分子群であるSERine Proteinase INhibitor(SERPIN)に属し、図1Aのような3次元構造をとる。SERPIN特有の3つのβシート(赤; A、緑; B、黄; C)と紫で示したreactive center loop(RCL)が特に重要な構造である。tPAやウロキナーゼ型プラスミノゲンアクチベータ(uPA、図1Bのシアン)は前述したプラスミノゲンの加水分解反応と同様、PAI-1分子内のRCLに存在するArg346-Met347のペプチド結合を加水分解しようと試みるが(図1B)、結合した瞬間にRCLはβシートAの間に移動し、tPAやuPAは180°反対方向に転移される(図1C)。その過程で、tPAやuPAの酵素活性は消失する。このようなSERPINの転移反応は、酵素との1:1複合体を形成したときにおこるものであるが、PAI-1は分子内にSS結合をもたない構造的に不安定な分子であり、全く刺激がない状態でも図1Dで示すような潜在型(latent form)になり活性を失う。血中に存在する接着分子であるビトロネクチン(図1E、オレンジ)は安定化因子として、PAI-1と結合することにより活性型(active form)を維持する。ヒトのPAI-1遺伝子はSERPINE1と呼ばれ、第7染色体(7q22.1)に約12kbの領域で9つのエクソンでコードされているが、最近の研究では、遺伝子転写反応は転写調節領域(-675bp)に存在する4G/5G遺伝子多型によって影響を受けることも知られている。
    【ノックアウトマウスの表現型】
     1993年にCarmelietらによって報告されたが、特に大きな出血傾向を認めず、妊娠出産ともに正常であった。その後の解析で、心筋に出血によるヘモジデリン沈着や線維化を示すことが認められた。
    【病態との関わり】
     PAI-1の発現は細菌感染などの影響で急激に上昇することが知られており、感染症時の易血栓状態を引き起こす原因の一つと考えられている。またノックアウトマウスと異なりヒトのPAI-1欠損症では大出血をきたすことが判明している。
    【その他のポイント・お役立ち情報】
     PAI-1はまた内臓脂肪量との正の相関を示し、メタボリック症候群の血栓症のリスク因子と考えられるようになっている。

    図表

    • 図1

    参考文献

    岩城孝行, 長橋ことみ、先天性線溶因子異常症と妊娠、産科と婦人科 80(1): 47 -54 2013