- 大分類
-
- 線溶
- 小分類
-
- 分子
ウロキナーゼ型プラスミノゲンアクチベータ(uPA) urokinase-type plasminogen activator (uPA)
解説
【概要】
ウロキナーゼ型プラスミノゲンアクチベータ(urokinase type plasminogen activator; uPA)は、セリンプロテアーゼの一種であり、プラスミノゲンを限定分解し、活性型プラスミンに変換する。
【構造と機能】
1) 産生細胞と血中濃度
uPAは、尿細管上皮細胞や血管内皮細胞、マクロファージ、がん細胞、神経細胞など、さまざまな細胞種で発現が報告されている。健常成人の血漿中におけるuPA濃度は0.3~1.1 ng/mLとの報告があり、比較的低濃度に保たれている。この濃度は、組織型プラスミノゲンアクチベータ(tissue plasminogen activator; tPA)の血中濃度の約1/5〜1/10である。uPAは血漿中で一本鎖非活性型のscuPA(single-chain uPA、別名Pro-UK)、二本鎖活性型の高分子量tcuPA(two-chain uPA)および低分子量uPA(low molecular weight uPA)として存在する。
2) 分子構造
ヒトuPAは411アミノ酸残基からなる分子量約55 kDaの一本鎖糖タンパク質前駆体のscuPAとして分泌される。scuPAは、EGF様ドメイン(残基1〜49)、クリングルドメイン(残基50〜131)、ドメイン間リンカーまたは接続ペプチド(残基132〜158)、およびセリンプロテアーゼドメイン(残基159〜411)で構成される。セリンプロテアーゼドメイン内のAsn302にはN結合型糖鎖が付加される。プラスミンやカリクレインなどによりLys158–Ile159間が切断されると、Cys148–Cys279間がジスルフィド結合で連結された二本鎖活性型のtcuPAとなる。さらにtcuPAがプラスミンなどによりLys135–Lys136間およびArg156–Phe157間で切断され、分子量約31.5 kDaの低分子量uPA となることもある。この際、アミノ末端フラグメント(amino-terminal fragment; ATF、残基1〜135)およびC末端由来の短いペプチド断片が放出される。
3) 機能
tcuPAのC末端に位置するセリンプロテアーゼドメインは、プラスミノゲンのArg561–Val562間のペプチド結合を切断し、プラスミノゲンを活性型プラスミンへと変換する。tcuPAはtPA のようにフィブリンに対する高い親和性を有さず、細胞形質膜に発現するuPA受容体(urokinase-type plasminogen activator receptor; uPAR)に結合する。uPARは3つのドメイン(D1、D2、D3)から構成され、uPAのN末端に位置するEGF様ドメインやATFは、uPARのD1ドメインに存在する疎水性ポケットに高親和性で結合する。この結合によりuPARが構造変化を起こし、D2およびD3ドメインを介してインテグリンやビトロネクチンとの相互作用が誘導される。このように細胞表面に局在し活性化されたuPA/プラスミン系は、細胞外基質の分解や各種プロテアーゼの活性化を介して、細胞の遊走、浸潤、増殖、分化などの細胞機能を制御し、組織の修復やリモデリング、血管新生、がんの浸潤・転移など、多岐にわたる生理的および病理的過程に関与している。
一方、scuPAはtPAほど高くはないもののフィブリンに対する親和性を有し、フィブリン上でプラスミンによりtcuPA に変換されると、周囲のプラスミノゲンを活性化しフィブリン上に限局した線溶活性を惹起しうる。
【uPAノックアウトマウス(uPA-KO)の表現形】
1) uPA-KOは、妊娠・出産、成長、外見的な健康状態において正常である。
2) uPA-KOでは、加齢に伴い腎臓や肝臓に軽度のフィブリン沈着が認められるが、血栓誘発モデルに対する線溶活性の低下は、tPA-KOと比べて軽度である。
3) 肝障害モデルにおいて、uPA-KOでは肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor; HGF)の活性化と肝再生が遅延する。
4) がんの増殖、浸潤・転移、血管新生、血管の内膜肥厚、動脈硬化、細菌感染などの病態モデルにおいても、uPAが病態進展に関与することが示唆されている。
5) uPA-KOをデュシェンヌ型筋ジストロフィーモデルマウスと交配させると、筋再生の遅延や筋力の低下、筋変性の増悪が認められている。
6) uPA-KOでは、自発行動の低下および外傷後てんかんの発症が報告されている。
【治療・診断マーカー】
1) uPAは、急性心筋梗塞などの血栓症に対する血栓溶解薬として使用されており、uPA製剤としては、ヒト尿中から精製されたtcuPAや樹立化細胞から精製されたscuPAが用いられている。tcuPAは、tPAに比べてフィブリンへの親和性が低いため、血栓溶解効率は劣るとされている。
2) 乳がんや卵巣がん、膵がんなどの悪性腫瘍において、診断および予後予測のためのバイオマーカーとしてのuPAの有用性が示唆されている。また、血漿uPA濃度は、経皮的冠動脈形成術後の狭心症再発を予測するマーカーとなる可能性も報告されている。
参考文献
1) 小嶋聡一.uPAの基礎と臨床.一瀬白帝(編著).図説 血栓・止血・血管学―血栓症制圧のために―.中外医学社.555-566, 2005.
2) 岡田清孝,松尾理.線溶系因子ノックアウトマウスと細胞性線溶.坂田洋一,小澤敬也(編集).別冊・医学の歩み血液疾患―state of arts.医歯薬出版.343-348, 2005.
3) 窓岩 清治.がんと線溶(臨床).日本血栓止血学会誌.33: 321-328, 2022.
4) Carmeliet P, Schoonjans L, Kieckens L, et al. Physiological consequences of loss of plasminogen activator gene function in mice. Nature. 368: 419-424, 1994.
5) Beck JM, Preston AM, Gyetko MR. Urokinase-type plasminogen activator in inflammatory cell recruitment and host defense against Pneumocystis carinii in mice. Infect. Immun. 67: 879-884, 1999.
6) Shimizu M, Hara A, Okuno M, et al. Mechanism of retarded liver regeneration in plasminogen activator-deficient mice: impaired activation of hepatocyte growth factor after Fas-mediated massive hepatic apoptosis. Hepatology. 33: 569-576, 2001.
7) Rijneveld AW, Levi M, Florquin S, et al. Urokinase receptor is necessary for adequate host defense against pneumococcal pneumonia. J. Immunol. 168: 3507-3511, 2002.
8) Dellas C, Schremmer C, Hasenfuss G, et al. Lack of urokinase plasminogen activator promotes progression and instability of atherosclerotic lesions in apolipoprotein E-knockout mice. Thromb. Haemost. 98: 220-227, 2007.
9) Suelves M, Vidal B, Serrano AL, et al. uPA deficiency exacerbates muscular dystrophy in MDX mice. J. Cell Biol. 178: 1039-1051, 2007.
10) Parfyonova Y, Alekseeva I, Plekhanova O et al. Plasma urokinase antigen and C-reactive protein predict angina recurrence after coronary angioplasty. Heart Vessels. 29: 611-618, 2014.
11) Bolkvadze T, Rantala J, Puhakka N, et al. Epileptogenesis after traumatic brain injury in Plau-deficient mice. Epilepsy Behav. 51: 19-27, 2015.
12) Rantala J, Kemppainen S, Ndode-Ekane XE, et al. Urokinase-type plasminogen activator deficiency has little effect on seizure susceptibility and acquired epilepsy phenotype but reduces spontaneous exploration in mice. Epilepsy Behav. 42: 117-128, 2015.
13) Mahmood N, Mihalcioiu C, Rabbani SA. Multifaceted role of the urokinase-type plasminogen activator (uPA) and its receptor (uPAR): diagnostic, prognostic, and therapeutic applications. Front. Oncol. 8: 24, 2018.
14) Alfano D, Franco P, Stoppelli MP. Modulation of cellular function by the urokinase receptor signalling: a mechanistic view. Front. Cell. Dev. Biol. 10: 818616, 2022.