- 大分類
-
- 線溶
- 小分類
-
- 病態
肝再生・肝障害と線溶
解説
【病態・病因】
肝臓は、血漿タンパク質やホルモンの産生・修飾(全身の1/10の血液が貯蔵)、ビタミンA/D・鉄の貯蔵と代謝、アルコールや薬物の分解・アンモニアを始めとする毒物の分解(解毒)、糖・脂質代謝(エネルギー貯蔵)、胆汁酸産生などを担う重要な臓器である。消化器系からの血液は肝臓を通過して心臓に戻る。肝臓は約70%を占める肝細胞(肝実質細胞)とそれ以外の非実質細胞で構成されている。肝細胞の柵と柵の間に類洞内皮細胞からなる類洞と呼ばれる毛細血管網が形成されており、門脈から中心静脈に向かって血液が流れる間に血液を入れ換えると言っても過言ではない。類洞には常在性マクロファージであるクッパー細胞やT細胞、B細胞、樹状細胞、NK細胞などの免疫系細胞が存在し、肝細胞柵と類洞内皮細胞の間にはビタミンAを貯蔵する肝星細胞が位置する。肝星細胞は肝障害時に活性化され、過剰なコラーゲン線維を産生する。肝臓は高い再生能力を有しており、2/3まで切除しても48時間をピークとして再生し、1週間ほどでほぼ元の大きさに戻る。肝再生時は、血管内皮増殖因子 (VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、インターロイキン(IL)-6などの増殖促進性サイトカインとTGF-βなどの増殖抑制性サイトカインが適切な時期に適切に働く。肝再生は、生き残った肝細胞が増える代償性再生と肝幹細胞が肝臓の細胞に分化する2つの機構による。劇症肝炎 や非代償性肝硬変などの重症の肝障害時には主に肝幹細胞による再生機構が働く。ウイルスや細菌(由来のLPS)・真菌、アルコール、薬物などに過剰に曝されると、肝再生が追い付かなくなり、肝再生不全が起こり、肝機能が失われた状態、すなわち肝不全に陥る。
【検査と診断】
急性肝不全(劇症肝炎)とは、肝炎のうち初発症状出現後8週間以内に高度の肝機能障害に基づく昏睡II度以上の肝性脳症を呈し、かつプロトロンビン時間が40%以下を示すものと定義されている。脳症が症状出現後10日以内に発現するものを急性型、11日以降に発現するものを亜急性型と分類する。ただし、先行する慢性肝疾患が存在する場合は除外される。
【治療の実際】
血漿交換や血液ろ過透析などの人工肝補助療法が行われる。予後不良例では生体部分肝移植を念頭に内科的治療が進められる。
【肝再生・肝障害における線溶系の役割】
肝再生・修復には組織線溶因子やマトリックスタンパク質が深く関与する。ウロキナーゼ型プラスミノゲンアクチベータ(uPA)がHGFを活性化し、プラスミン/マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)系がマトリックスにプールされているHGFを遊離させることで肝再生を促進する。また、興味深いことに、肝臓では障害部位におけるプラスミノゲン/プラスミンによるフィブリン分解よりも、むしろフィブリン以外の細胞外基質の分解の方が重要であることが示唆されている1,2)。さらに、uPA/プラスミノゲン系は、肝修復部位におけるマクロファージの集積と集積したマクロファージによる壊死組織の貪食に寄与している3,4)。一方、最近のマウスでの研究において、肝臓由来のscar-associated macrophages(SAMs)にはプラスミノゲン受容体の1つであるPlg-RKTが高発現しており、Plg-RKTを介するプラスミノゲンのシグナルがSAMsの形質を変化させ、肝線維化病態の進展に寄与することが示されている5)。
TGF-βは肝再生の最終段階で肝再生を終息させる因子であるが、プラスミノゲンアクチベータインヒビター1(PAI-1)は線溶因子によるTGF-β活性化反応を制御することで肝再生に寄与している。PAI-1増加による線溶活性の低下が、肝障害時の微小血栓形成に伴う肝障害の進行に寄与することが示唆されている。肝障害・肝不全時には凝固タンパク質の産生低下により過線溶状態や播種性血管内凝固症候群(DIC)に陥ることがある。
引用文献
- Okada K, Ueshima S, Imano M, Kataoka K, Matsuo O: The regulation of liver regeneration by the plasmin/alpha 2-antiplasmin system. J Hepatol 40: 110-116, 2004.
- Ng VL, Sabla GE, Melin-Aldana H, Kelley-Loughnane N, Degen JL, Bezerra JA: Plasminogen deficiency results in poor clearance of non-fibrin matrix and persistent activation of hepatic stellate cells after an acute injury. J Hepatol 35: 781-789, 2001.
- Kawao N, Nagai N, Ishida C, Okada K, Okumoto K, Suzuki Y, Umemura K, Ueshima S, Matsuo O: Plasminogen is essential for granulation tissue formation during the recovery process after liver injury in mice. J Thromb Haemost 8: 1555-1566, 2010.
- Kawao N, Nagai N, Tamura Y, Okada K, Yano M, Suzuki Y, Umemura K, Ueshima S, Matsuo O: Urokinase-type plasminogen activator contributes to heterogeneity of macrophages at the border of damaged site during liver repair in mice. Thromb Haemost 105: 892-900, 2011.
- Yang Y, Li W, Liu C, Liu J, Yang L, Yue W, Xue R, Zhang K, Zhang H, Chang N, Li L: Single-cell RNA seq identifies Plg-R(KT)-PLG as signals inducing phenotypic transformation of scar-associated macrophage in liver fibrosis. Biochim Biophys Acta Mol Basis Dis 1869: 166754, 2023.
参考文献
1) 桶谷真他:劇症肝炎及び遅発性肝不全の全国統計,臨床消化器内科 日本メディカルセンター Vol.23 No.13,2008.
2) 奥村暢章,関泰一郎:線溶系と組織再生,血液フロンティア Vol.21 No.11,株式会社医薬ジャーナル社,2011.