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第V因子欠乏症・異常症 congenital factor V deficiency/abnormality
解説
【概要】
先天性第V因子欠乏症・異常症は、血液凝固第V因子(FV)の量的欠乏・機能異常による先天性凝固障害症である。本症は遺伝性出血性疾患で、常染色体劣性遺伝形式により男女両性に発症する。
【遺伝子】
凝固第V因子遺伝子(F5)は第1染色体q23-24に存在し、全長約80kbで25のエクソンから構成されている。
【病態・病因】
通常、凝固第V因子遺伝子に変異をもつホモ接合体例は出血症状があり、ヘテロ接合体例は無症状である。血漿第V因子活性と出血症状は相関が乏しく、血漿第V因子活性が1%未満でも無症状の報告例がある。凝固第V因子は血小板α顆粒にも存在しており、出血症状の重症度は血小板第V因子に依存していると考えられる1)。出血症状は、鼻出血、歯肉出血、皮下出血、過多月経などの粘膜出血が主体となるような軽度から中等度の場合もあるが、関節内出血、筋肉内血腫、脳内出血や消化管出血などの重度の出血をきたす場合もある。
一方、凝固第V因子異常症の中には血栓傾向をきたす場合もある。凝固第V因子遺伝子変異であるFactor V Leiden(FV R506Q)は、凝固第V因子の活性化プロテインCによる主要な開裂部位のArg506がGlnに置換したFV異常分子で、欧米で高率に認められる静脈血栓症の危険因子である。FV Leidenは、APCレジスタンス(活性化プロテインC抵抗性;APCR)の主な原因である。
【疫学】
先天性第V因子欠乏症・異常症は、100万人に1人の発生頻度と推定されている。国際血栓止血学会(ISTH)のMutation Causing Rare Bleeding Disordersの凝固第V因子変異データベース3)には、115種類の変異が集まっている。日本では、血液凝固異常症全国調査平成26年度報告書(財団法人エイズ予防財団)に、第V因子欠乏症が35例(男性17例、女性18例)報告されている。
【検査と診断】
診断は、臨床症状、病歴、凝固第V因子活性測定と家系内検索によって行われる。しかし、第V因子欠乏症は出血症状が軽度であることが多いために、術前検査で初めて発見される場合がある。第V因子欠乏症では, プロトロンビン時間(PT)と活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)の両者が延長し、これらの延長は正常血漿混合で補正される。凝固第V因子活性が10%以下であれば本症を疑い, 獲得性(後天性)凝固第V因子インヒビターによる凝固第V因子の低下、重症肝疾患による合成低下、播種性血管内凝固症候群(DIC)による消費、先天性第V因子・第VIII因子合併欠乏症との鑑別が必要である。
【治療の実際】
出血の可能性は個々の症例により異なるが、凝固第V因子活性をもとに治療計画を立てる。手術時や外傷時、重症出血時などの止血管理は、新鮮凍結血漿(FFP)の輸血を行う。凝固第V因子の生体内回収率は50~100%、半減期は36時間である。FFPは最初15~20ml/kgを静注し、続いて凝固第V因子活性20%を維持するように補充する。鼻出血や歯肉出血には、トラネキサム酸が有効である。
【その他のポイント】
FV Leidenは、欧米で高率に認められる先天性血栓性素因の1つとして重要であるが、日本人を含む東洋人からはFV R506Q変異は検出されていない。日本においては、APCレジスタンスを示し静脈血栓症を発症したFV異常症として、FV Nara変異(W1920R)2)家系と、別のFV変異家系の報告がある。
凝固第V因子遺伝子のFV H1299R変異(ポリモルフィズム)を含んだ10以上のポリモルフィズムにより構成されているFV R2ハプロタイプも、血栓症発症やAPCレジスタンスに関与することが示唆されている。
図表
引用文献
1) Shinozawa K, Amano K, Suzuki T, Tanaka A, Iijima K, Takahashi H, Inaba H, Fukutake K: Molecular characterization of 3 factor V mutations, R2174L, V1813M, and a 5-bp deletion, that cause factor V deficiency. Int J Hematol 86: 407-413, 2007.
2) Nogami K, Shinozawa K, Ogiwara K, Matsumoto T, Amano K, Fukutake K: Novel FV mutation (W1920R, FV Nara) associated with serious deep vein thrombosis and more potent APC resistance relative to FV Leiden. Blood 123: 2420-2428, 2014.
参考文献
1) 篠澤圭子:先天性第V因子欠乏症とその遺伝子変異,日本血栓止血学会誌 16:281-296,2005.
2) 篠澤圭子,野上恵嗣:Factor V がいよいよ面白くなってきた:血栓症をおこしたFV NARA変異とAPCレジスタンス,日本血栓止血学会誌 25:482-493,2014.
3) 国際血栓止血学会(ISTH),Mutation Causing Rare Bleeding Disorders,凝固第V因子変異データベースhttp://c.ymcdn.com/sites/www.isth.org/resource/resmgr/publications/fv_mutations-2011.pdf